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再生可能エネルギー資源についての覚え書き (3) 環境省の報告書

環境省から、次のような再生可能エネルギー資源についての調査報告書が出ている。

平成22年度のものは、平成21年度の調査をいくらか先に進めたうえで、年度末に起きた大震災を受けて東北地方に重点を置いて報告をまとめたものなので、計算の前提については平成21年度の報告書をみたほうがよさそうだ。

再生可能エネルギーとしては、太陽光発電風力発電、中小水力発電地熱発電があげられている。報告書全体として、エネルギーの自給自足ではなく都市や工業などにエネルギーを供給する事業がどれだけ成り立つかを評価しようとしたようだ。太陽光発電には「非住宅系」ということわりがあり、住宅の屋根につけるものは除かれているが、工場や公共施設の屋根は、あき地や耕作放棄地とともに対象とされている。水力についての中小とは大規模ダムを使うものは除くという趣旨で、実際には設備容量3万kW未満としている。

まず、エネルギー源の種類別に、まず自然条件と現在の技術水準をもとにエネルギー資源の「賦存量」の地理的分布を求める。さらに社会的制約条件を考慮して「導入ポテンシャル」の地理的分布を求める。そして平成22年度報告では、買い取り価格などの制度に関する複数のシナリオを仮定して事業収支を考えてシナリオ別の「導入可能量」を集計する。このような意味での手順は統一されているが、報告内容はエネルギー源の種類別に別々の会社に委託して評価計算をしてもらったものを単純にまとめたものらしく、種類間の公平な比較はねらっていないようだ。

太陽光発電は、太陽電池だけを想定していて集光は考えていない。そこで賦存量の評価には直達日射と散乱日射を分けない全天日射量が使われる。傾いた面に設置することを想定し、年間を通した最適な傾斜角での斜面日射量を使っている。ただし平成21年度報告書には賦存量の分布図は見当たらず、平成22年度の報告書概要に含まれているのは2010年にNEDOが出した「太陽光発電フィールドテスト事業に関するガイドライン(設計施行・システム編)」から引用となっているが、気象庁の日射量の観測が継続している地点(間隔は50kmくらい)について斜面日射量を計算して等値線をひいたもののようで、10kmスケールの地形に応じた雲の出やすさなどは考慮されていないようだ。この図は年平均値だが、平成21年度の報告の本文を見ると月ごとの斜面日射量を使っているので、季節変化はいちおうは考慮されているようだ。賦存量の段階で航空写真などを使って地理的分布を詳しく見ているが、それは太陽電池を設置できる建物面積の評価に使っただけのようだ。

風力の賦存量は、地上80mの風速を水平1km分解能で(観測値をもとに気象数値モデルを使って)求め、その年平均値が陸上で5.5m/s、海上で6.5m/s以上のところが有効としてさらに階級分けをしている。その結果をさらに社会条件によってしぼりこんで導入ポテンシャルが得られる。

陸上の風力の導入ポテンシャルの分布図を見ると、PDFファイルの図があまり鮮明ではないが、北海道・東北と南西諸島にはかなり適地があるものの関東・中部以南の本州には適地がとても少ないように見える。賦存量がすでに東北以北に比べて少ないのだが、その違いはあまり大きくない。社会条件によるしぼりこみが効いているのだ。その条件に目をとおしてどれが効いているのかを想像してみると、一方で標高1000m未満、幅3m以上の道路から10km未満という条件で人里であることを要求しながら、他方で居住地から500m以上離れていることも必要とし、また土地利用が「建物用地」「河川・湖沼」「その他」を除外して「『その他』(=田を除く)農用地」「森林(保安林を除く)」「荒地」「海浜」に限ってしまったからだと思う。おそらく、パワー効率の観点から風車は大型であるべきだと考え、低周波音問題を考慮して居住地から離す必要があると判断したのだと思う。わたしは、住宅の近くに静かな小型の風車を置くことも考えてよいと思うが、それは他地域へのエネルギー供給のたしにはならないのでこの報告書の趣旨に合わないのかもしれない。それにしても、土地利用によってはずされたところのうちにはまだ適地が残っていると思う。(1990年代に地理情報学の助教授をしていたとき知った状況が変わっていなければだが) 大きな工場の敷地のうち実質的にあき地の部分も「建物用地」になっているはずだ。太陽光の章では意識的に含められた下水処理施設なども「建物用地」か「その他」か「河川」になっているだろう。

海上での風力の導入ポテンシャルのあるところはかなり広いように見えるが、「浮体式」は海岸から30kmまで、水深200mまで設置可能というのはもっともらしいものの、その条件の合ったところのうちあまり広い面積を占めることができるとは期待しにくいと思う。

水力の賦存量は、日単位の河川流量の頻度分布を考慮し、さらに用水取水量が年のうちで大きくなる時期に注目して年の代表値を求めている。導入ポテンシャルはそれを建設費用などによってしぼりこんだものである。

自然エネルギーの賦存量には季節変化があり、需要のほうも季節変化がありうるので、年平均だけでなく季節別の評価もしたほうがよいのではないかと思った。とくに日本海側では、夏にはじゅうぶんな日射があるところが多いので、夏に太陽光、冬に風力という組み合わせが考えられると思う。もちろん、設備が休んでいる時期があることを含めてコストを考える必要がある。また、日本海側には冬に雷が多いという問題もある。(雷対策についてはNEDOの文書を見つけた。[以下2011-06-12更新] まだ実質読んでいないのでよい文献かどうかは未確認だがひとまずありかをあげておく。「日本型風力発電ガイドライン策定事業の最終報告書」(2008年) http://www.nedo.go.jp/library/furyokuhoukoku_index.html のうちの「落雷対策編」だ。)

[2011-06-12補足] この資料を見たきっかけのひとつは、「福島の原発周辺を風力発電所にしよう」という提案を見たことだった。この資料の図の情報はあまり確実に読み取れないので、むしろそれを読む以前からのわたしの気候学的知識による判断だが、原発の地点は西風が山にさえぎられるので他地域にエネルギーを提供するような風力発電所は立地できないだろう。しかしその西側の阿武隈山地の尾根にならば適したところがあるだろうと思う。