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地球温暖化に関する講演(11月4日、秋田県本荘で)

11月3日の秋田での講演(11月1日の記事で述べた)に続き、11月4日には秋田県立大学本荘キャンパスで金澤伸浩准教授の「環境システム工学」の一環として、地球温暖化に関する講義をした。重点は前日の講演とは違い、温暖化という自然科学的現象の理解について、『化学』6月号(紙の雑誌のほか、http://www.kagakudojin.co.jp/kagaku/ でオンラインで読める) [著者によるHTML版(アクセス制限あり)][2019-01-17 改訂]にのった解説「地球温暖化の考え方」に沿って述べた。

講義のあと、学生さんからではなく先生がたからだったが、いくつか質問があり、むずかしい問題が多かったが答える努力をした。下に書くのは、あまり確かでない記憶によって再構成したものである。

  • 問1a: 温暖化は2℃を越えると危険だと言われることがあるが、それは正のフィードバックが起きてとりかえしがつかないということか。
  • 答1a: 正のフィードバックのうち、水蒸気の温室効果は(真鍋・Wetheraldの1967年の論文以来)考慮ずみで、IPCCがまとめた予測にも組みこまれている。土壌有機物分解によるCO2放出は進行中の研究の一部では考慮している。そのほかのものは未知のところが多い。気候システム自体の問題として、「温暖化があるしきい値を越えると強い正のフィードバックが働いて急激な変化が起こる」可能性がないとは言えないが、そのしきい値の有無や数値について共通理解が得られているわけではない。したがって、政策決定の根拠は、急変の可能性ではなく、IPCC(たとえばその第4次統合報告書政策決定者向け要約の図SPM.5など)が示すような(急変を重視する人から見ればゆるやかな変化の)気候シナリオに置くべきだ。そして、急変の可能性については別に非常事態として備えるべきだと(わたし個人としては)思う。
  • 問1b: 危険なレベルが2℃というのは妥当だと思うか。
  • 答1b: とくにヨーロッパの政治家が産業革命前からの上昇量が2℃を越えると危険だと主張している。気候システム自体の急変ではなく、人間社会のほうが対応できる限界があるという問題だと思う。おそらく限界となるのは温度上昇自体ではなく、ひとつは降水の変化(ある地域では大雨、他の地域ではかんばつ)、もうひとつは海水準上昇。数値の根拠はわからないが、産業革命前より2℃高い状態が百年も続いたら危険だというのはもっともだと感じられる(これは個人的感想にすぎない)。しかし、アジア諸国の工業化に伴うCO2排出増加を見ると、もはや一時的に2℃を越えることは避けられない可能性がかなりある。2℃を越える期間を短くするような対策を考えるべきだと思う。
  • 問1c: 今後百年の温暖化は何℃くらいになりそうか。
  • 答1c: 排出に関する政策の不確かさのほかに、気候システムの中の雲のふるまいに関する不確かさ(温暖化すると雲に覆われた面積がふえるか減るか、雲の太陽光反射効果と温室効果のどちらが強いか)がある。IPCC第4次報告書で評価されたうちの、意識的に排出抑制はしないがエネルギー資源を化石燃料ばかりに偏らない排出シナリオ(SRES A1B, A2)による場合、21世紀末の温暖化見通しには2℃から5℃くらいまでの幅があり、幅の主な理由は雲に関する不確かさである。排出抑制を含むシナリオについては研究進行中。
  • 問2: CO2排出削減のためには、エネルギー資源を転換する必要があるが、バイオマス燃料が化石燃料にとってかわることは不可能だろう。太陽光、風力、水力、原子力などを総合的に使っていき、さらに節約する必要があるのではないか。
  • 答2: わたしもそう思う。ただし、化石燃料や原子力は集中して得られるエネルギー資源であり20世紀の産業はそれに適応して発達してきた。太陽光・風力・(大規模ダムによらない)水力・バイオマスはいずれも空間について広く分散し時間について間欠的な資源なので、21世紀の産業政策は、エネルギー資源の収入のあるとき・ところにその支出を配置することだろうと思う。20世紀の発達を逆行させるべき部分もあると思う。
  • 問3: (『化学』解説の図3、IPCC第4次報告書第1部会の部の図9.5 https://www.ipcc.ch/report/ar4/wg1/understanding-and-attributing-climate-change/fig-9-05-2/ http://www.ipcc.ch/publications_and_data/ar4/wg1/en/figure-9-5.html [2019-01-17 リンクさき変更] の内容を確認したうえで) 20世紀の温暖化は人為的と言ってよいのか?
  • 答3: よい。ただし、それは、全球平均地上気温の20世紀後半の上昇が人間活動起源の大気成分変化抜きでは説明できないという意味である。自然要因(太陽活動、火山起源のエーロゾル)の働きがないという意味ではなく、複数の原因が同時に働いているのだが、そのうち人間活動起源の大気成分変化(さらにその内でエーロゾルよりも温室効果気体)の相対的な重要性が大きいという意味である。

なお、『化学』の解説の図4についてはあまりよく説明できなかったが、これは気候システム全体の過去数十年のエネルギー収支の実際の数値を調べる最近の研究の一例だということだけ理解していただければよいと思う。内容に立ち入って説明しようとすると講義の時間ではたりない。(また、わたし自身しっかり理解するには自分でもデータを入れて計算してみたいと思うがその時間がとれそうもない。)