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講演「地球温暖化を見渡す」(11月3日、秋田で)

11月3日、「大学コンソーシアムあきた」からの依頼で、秋田市(カレッジプラザ)で地球温暖化に関する話をすることになりました。http://www.consortium-akita.jp/info/detail.html?no=638 に予告が出ています。

この記事ページは、講演の補足と、講演に関連したコメントをいただく場として用意したものです。

講演ではなるべくわたしがとらえている地球温暖化問題の全体像を話そうと思っています。(具体例は乏しいものになってしまうかもしれません。) 昨年書いてまだ出版されていない総説の原稿があり、だいたいそれに沿った筋書きで話す予定なので、原稿の目次を下につけます。

ひとつの講演ですが、発言の立場は8月17日の記事「科学者が社会に発言する立場をしわけてみる」でも述べた次の3つのものが混ざったものになります。

  • (1) 多くの科学者を(非公式に)代表して、現在の科学が到達した知見を述べる。
  • (2) 科学者のひとりとして、自分が科学的に正しいと思っている知見を述べる。
  • (3) 科学知識をもった市民として、主観的認識や意見を含めて述べる。

原稿の節と発言の立場を対応させると、およそ次のようになります。

  • 1,2,3. 気候変化・地球温暖化に関する考えの整理 ... (2)
  • 4. 地球温暖化の見通しはどのように得られているか ... (1)
  • 5. 温暖化論の構成上注意が必要な点 ... (2)
  • 6. 温暖化問題をより大きな文脈で考える ... (3)

原稿「地球温暖化問題に関する一つの展望」目次

  • 1. まえおき
  • 2. 地球温暖化という問題
    • 2.1. 気候とは
    • 2.2. 気候変化(climate change)
    • 2.3. 地球温暖化とは
  • 3. 地球システム論から見た地球温暖化問題
    • 3.1. 地球(表層)システム
    • 3.2. 地球システム論的な地球環境問題のとらえかた
    • 3.3. 地球温暖化が人間社会にとって有害と考えられるわけ
  • 4. 地球温暖化の見通しはどのように得られているか
    • 4.1. 気候システムの理論とモデル
    • 4.2. 理論的予言としての地球温暖化の「発見」
    • 4.3. 温暖化の予測型シミュレーション
    • 4.4. 全球規模の気候変化の検出と原因特定
  • 5. 温暖化論の構成上注意が必要な点
    • 5.1. ローカルな気候変化の議論のむずかしさ
    • 5.2. 急激な気候変化の可能性
  • 6. 温暖化問題をより大きな文脈で考える
    • 6.1. 成長の限界
    • 6.2. エネルギー資源の転換
    • 6.3. 生態系への影響
    • 6.4. 人間社会の気候への適応
    • 6.5. 貧富の格差
    • 6.6. 持続可能性
    • 6.7. 今後の国際体制についての個人的意見


質疑応答 [ここからは11月4日追記]

講演のあとの質問とそれに対するわたしの答え。ただし、記憶が正確でないかもしれず、また答えのほうの表現はあとで改良したところもある。

  • 問1: (原稿目次「6.5 貧富の格差」に関して) 世界の貧しい部分の気候変動の影響に対する回復能力を高めることに対して、日本にいる人にはどんなことができるか?
  • 答1a: 現地で技術面の対策を必要としている人を助けることはできる。一例として、わたしの勤めている組織の仕事のうちで、レーダーなどの手段で得られた観測データの活用方法を開発する仕事は、東南アジアの国の気象庁や河川局に相当する機関が洪水警報を出す能力を高めることへの協力という意義をもっている。
  • 答1b: 対策には技術というよりは政治が重要なものもある。たとえば洪水被害を減らすためには、洪水のおそれのある地域の土地利用規制などの政策も必要で、その主体は現地の国や地方自治体にちがいない。地元の政策案を作る人が知識を求めていればリスク評価の面で協力することはできるだろう。
  • 問2: (原稿目次「6.6 持続可能性」に関して) エコロジカル・フットプリントについてもう少し説明してほしい。
  • 答2: 人間活動の環境と天然資源へのさまざまなインパクトを、異質なものを含むことは承知で、あえて面積という一つの尺度にまとめて数えるやりかた。食料や飼料の生産に使った農地や木材資源を使った森林などの面積を数える。エネルギー資源消費は、排出された二酸化炭素を吸収するのに必要な面積を数えている。概算で人類は地球の利用可能な土地の面積の約2倍を使っていることになる。(二酸化炭素を吸収しきれていないことを反映。) 厳密な客観性はないが、人間活動のインパクトを小さくしていくべきだという理念を共有する人の間での指標としては有用。[Wackernagel & Reesの本の読書ノート]参照。
  • 問3: 温暖化対策に対する国どうしの利害対立、クレジット制度などについての考えは?
  • 答3: 政治的な話題でわたしの専門ではないが、政治家だけにまかせるわけにもいかないと思うので、自然科学的知識をもつ市民としての考えを述べる。最近、環境問題のうちで温暖化が突出しすぎて、それだけに注目した対策が話題になる傾向があった。そのことへの批判には正当な部分もある。たとえば自然植生をこわしてバイオ燃料のための作物を栽培するのは、仮に温暖化軽減にはなるとしても生態系保全にならない。しかし、その批判から温暖化は重要でないという議論に向かうのは行き過ぎだと思う。温暖化は人間活動の環境へのインパクトの一側面だ。総合的にインパクトを小さくしていく方向で政策判断(貢献への報奨を含む)をしていくべきだと思う。
  • 答3の補足: 地球環境問題のうちで温暖化の議論が先行したのは偶然ではない。温暖化に関しては1970年代から理論的考察が進んでいたので科学を根拠とした議論ができた。生物多様性・生態系保全の問題は、伝統的自然保護の課題としては昔からあるが、理論的枠組みや、全地球規模の問題としての位置づけの議論は新しい。出遅れたというよりも、気候の問題に比べて理論化がむずかしい問題なのだと思う。

ワークショップで考えたこと

講演に続いて、金澤伸浩さん(秋田県立大学准教授)の企画によるワークショップが行なわれた。出席した個人個人が温暖化問題をどうとらえるかを出し合って考えるものだった。その話を聞きながら、わたしが考えたことを次に述べる。参加されたかたがたの発言から発想をとりこんでいる。しかしワークショップ全体の議論をまとめたものではない。

  • 現代の生活、とくに健康維持は、エネルギー資源消費を前提として成り立っているところがある。昔の生活にもどってよいとは言いにくい。エネルギー資源消費を減らしながら健康な生活を維持するような知恵を構築していく必要がある。
  • 暑さ寒さへの適応として、ときにはがまんして自然の温度の中で生活する必要があるかもしれない。ときにはエネルギー資源を消費しても冷暖房をする必要があるかもしれない。
  • エネルギー資源を消費するサービスは、需要を察知して、必要なとき・ところだけするべきだ。すでに照明については、人が来たときにスイッチがはいるしくみが実用になっている。冷暖房などについても同様に考えるべきだ。ただし人が来たらスイッチを入れるのではうまくないかもしれず、くふうが必要。この論点は安井至博士(ウェブサイト http://www.yasuienv.net/ )のいう「新コタツ文明」と同様だと思う。
  • 工業先進国の人間の生活は、漁業を別とすると野生生態系への直接の依存は小さいが、農地などの改変された生態系への依存は大きい。いわば人間はそういう生態系の食物連鎖の頂点にいる。人口問題は、一方では生態系の一員としてのヒトの動態の問題である。(人口問題は他方ではエネルギー資源を消費する主体の問題でもある。)