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気象災害被害額の増加に関するIPCC報告書への疑問

「わたしにはよくわからない」という覚え書きにすぎないのだが、別記事へのコメントから独立させて出しておく。

IPCC第4次報告書について、第2部会第1章の中の気象災害被害額の件で、材料とした文献を正しく引用しないで勝手な議論をしてしまっているという批判が出ている。わたしにはこの批判が正しいかどうか評価することがむずかしい。

材料とされた文献は次のものらしい。
R. Muir-Wood, S. Miller and A. Boissonnade, 2006: The Search for trends in a global catalogue of normalised weather-related catastrophe losses. Climate Change and Disaster Losses Workshop, Hohenkammer, Munich, 188 - 194.

これは査読を経た論文ではないが、のちに次の論文(本の章)になった。
S. Miller, R. Muir-Wood and A. Boissonnade, 2008: An exploration of trends in normalized weather-related catastrophe losses. Chapter 12, pp. 225-247, in Climate Extremes and Society, edited by H. F. Diaz and R. J. Murnane. Cambridge University Press.

[ここから2010-07-01 追記]

批判の中には根拠のないものもあったようだ。IPCCは、2010年1月25日に出した文書 (環境省による日本語訳 http://www.env.go.jp/earth/ipcc/ipcc_statement/20100125.pdf) で、 Sunday TimesのJonathan Leake氏による批判は不当であり報告書はまちがっていないとしている。

生き残っている問題としては次のものがある。Roger Pielke Jr.氏の個人ブログ記事 http://rogerpielkejr.blogspot.com/2010/02/ipcc-mystery-graph-solved.html 参照。

Muir-Woodたちの研究に基づくとされる図のうちに、Muir-Woodたちによる参考文献にないものがあった。
これは、この章の執筆者(contributing author)だったMuir-Wood氏が、説明のために追加したものだということがわかった。IPCC報告書の内容は既存の文献に基づく必要があるが、説明のための図をつくりなおすのはふつうのことなので、ルール違反ではない。
しかし、印刷版にはのらずディジタル版だけの付録にのった図だが、図SM.1-1では、災害被害額と気温の時系列が同じ時間軸に表示されている。災害被害額増加の主原因が温暖化だと主張しているわけではないのだが、そういう印象を与えやすいという意味で、この図は報告書本文を理解する助けというよりは妨げになっているのではないか、という批判がある。言われてみればわたしも、このような図を詳しい論述なしにのせるべきではないと思う。