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気候変化への人間活動の影響は温室効果気体排出だけではない

気候変化への人間活動の影響はCO2などの温室効果気体を排出することだけではない。これはあたりまえのことだ。ただし、温室効果気体排出以外の効果は相対的に無視できる、という主張はありうる。

それを無視するべきではない、という評論が、学会(AGU=アメリカ地球物理学連合)の機関紙にのった。

R. Pielke Sr., K. Beven, G. Brasseur, J. Calvert, M. Chahine, R. Dickerson, D. Entekhabi, E. Foufoula-Georgiou, H. Gupta, V. Gupta, W. Krajewski, E.P. Krider, W.K.M. Lau, J. McDonnell, W. Rossow, J. Schaake, J. Smith, S. Sorooshian, and E. Wood, 2009: Climate change: The need to consider human forcings besides greenhouse gases. Eos (American Geophysical Union), Vol. 90 (No. 45), 413.

郵便で届いて気づいたので、発行から2か月くらいたっている。EosのPDFファイルはAGUのサイトにそろっているが会員限定だ。この評論は第1著者のRoger Pielke Sr.(同じ名前の息子がいるがSr.は父親のほう)の著作一覧のページ http://cires.colorado.edu/science/groups/pielke/pubs/ に R-354 としてのっており、そこにPDFファイルもある。

Pielke はローカルな気候の専門家だが、温暖化に関して懐疑的なこと(ただし否定論ではない)も言っているので、彼だけなら、変わり者の発言として軽視されるかもしれない。しかしこの共著者には、地球上の水循環・エネルギー循環、陸面・大気相互作用に関して確かに重要な仕事をした学者たちが含まれている。

気候への人間活動の影響として取り上げられていることのひとつは、エーロゾルだ。IPCCでも人為起源のエーロゾルはとりあげられているものの、成層圏にグローバルに広がる硫酸液滴による寒冷化を想定した議論がおもだった。しかし、すすなどの黒いエーロゾルもあり、温暖化に働くことがある。ただし、すすなどは、全球一様に広がるわけではなく、影響は非常に不均一になる。

もうひとつは、土地利用変化だ。土地利用変化に伴う炭素の収支は、CO2の排出源・吸収源の勘定にはいっている。しかしそれ以外に、地表面の太陽光反射率の変化や、地表面からの水の蒸発のしやすさの変化による気候への影響もある。

IPCCやそれに関連した各国の研究計画では、気候変化の予測型シミュレーションが重視され、その精度を高めることが重要とされてきた。ところが、予測型シミュレーションのためには変化の原因のシナリオを与えなければならない。全球一様とみなしてよい温室効果気体や硫酸エーロゾルに関してはわりあい信頼がおけるシナリオを用意できるが、不均一なすすや土地利用変化に関して信頼できるシナリオを作ることはとてもむずかしい。

そこで、この評論の著者たちは、気候変化の軽減策と適応策を考える際に、予測型シミュレーションに頼りすぎないようにし、むしろ、人間社会がさまざまな原因による気候変化によってどのような損害をこうむりうるか(脆弱性=ぜいじゃくせい、vulnerability)を認識し、それを小さくしていく方策を考えることが重要だと主張している。