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歴史人口学とのかかわりを考えるための気候に関する論点メモ

【まだ書きかえます。いつどこを書きかえたかを必ずしも明示しません。】

歴史人口学の研究者からさそいを受けて、6月に「気候と人口の研究の共通言語を考える -- 気候研究者は何を提供できるだろうか--」という題目で話す予定で、準備をしている。そのための、つくりかけのプレゼンテーションファイルの内容をここに出しておく。現状ではあきらかに説明不足なところがある。この記事へのコメントなどの形で質問いただければ補足できるかもしれないが、そうすることをお約束はしない。今後、改訂して、このページに反映させるか、または、あたらしいページにしようと思っている。

----- p. 1 (省略) -----

----- p. 2 -----
「気候 (climate)」の概念 … 学問の発達による3つの層の共存

  • 1. 人間社会をとりまきその制約となる自然環境(風土)のうち、(地表に近い)大気に関する要素。寒暖、乾湿、風など。 
  • 2. 気象観測で得られる物理量(気温、降水量など)の(季節を区別した)数十年(典型的には30年)間の統計 (平均だけではない)で記述される現象群。時間スケールで「天気」「天候」「気候」とわける。英語では「天候」がわかれず「weather」「climate」。 
  • 3. 「気候システム」の状態。気候システムは、大気・海洋・雪氷・陸面からなる、質量とエネルギーのたまりと流れのシステムであり、フィードバックシステムでもある。

2の意味の気候の変化の原因論や予測のために3が必要。 

----- p. 3 -----
気候システムの(学問対象としての)特徴

  • 物理法則にもとづく数理モデルがあり、予測型(時間順方向)のシミュレーションが可能。 (時系列統計はもはや予測の主要手段ではない。) 
  • モデルは物理法則だけによるのではなく、経験則による部分(「パラメタリゼーション」)も含む。 
  • 初期時刻でのシステムの状態(「初期値」)が必要。観測値と予測値を組み合わせる「データ同化」手法が発達し、その産物が研究の必需品となった。 
  • 初期値のわずかな差が拡大する「カオス」性があり、その克服のために「アンサンブル予測」手法がある。 
  • さまざまな複雑さのモデルによって支持される知見は確信度が高い。 

----- p. 4 ----- 
気候の「変化」と「変動」

  • 区別しないばあい、区別するばあいがある。 
  • ここでは原則として区別しない。 
  • 対象の時間区間を決めた場合に区別できる。 
    • はじめとおわりの状態がちがう場合、「変化」 
    • 同じ状態のまわりをゆらいでいる場合、「変動」 

気候の変動と、天候の年々変動 (ここでのつかいわけ)

  • 「気候」は30年程度以上の統計でとらえられる状態
  • 「気候の変動」は30年よりも長い時間での変化
  • 30年より短い時間スケールの変化 (天候の年々変動、例:エルニーニョ南方振動)は気候のひとつの状態のうちわけ

----- p. 5 -----
気候から人口へのありうる因果関係 (まず慢性的現象) (時間規模「月」程度以上)
気候の変化
↓ (出現確率の変化)
極端な天候

  • 寒 (冷夏、厳冬)
  • 暖 (酷暑、暖冬)
  • 乾 (渇水)
  • 湿 (慢性的洪水)


農作物収穫 ← 農業技術、農業経営

利用可能食料 ← 備蓄、交易、政策的再分配

人口 ← ...

[注] 周期帯別の感度の問題は、ここではとりあげず、別に考える。

----- p. 6 -----
気候から人口へのありうる因果関係 (急性的現象)
破壊的現象(「!」)
いつ、どこで、どの規模の破壊がおきるか、決定論的には論じられない。
(確率論的な議論は可能と思われる。べき乗分布? 指数分布?)

  • 天候  →!暴風雨 (「天気」現象) →! (破堤など) 急性的洪水 (近代日本では大部分の洪水) 
  • (気候と無関係) !火山噴火、地震 → (気候由来と複合) 
  • (天候、洪水なども含む要因) →!感染症outbreak  
  • (天候、洪水なども含む要因) →!暴動、武闘 

実現した結果について気候・気象要因を論じることはできそうだ。
気候要因と社会現象の因果関係の決定論的議論はできそうもない。
(多数事例をまとめてモデル化した確率論的議論ならばできるか?)

----- p. 7 -----
周期帯ごとの気候変動への人間社会の適応

  • 数年周期   …  備蓄などで適応 
  • 数十年周期 … 適応できず、災害となる 
  • 数百年周期 … 移住などで適応 

 (参考) 中塚 武, 2012: 気候変動と歴史学。『日本史と環境』 (平川 南 編, 吉川弘文館), 38-70.

----- p. 8 -----
火山がもたらす災害と気候影響 (さまざまな規模)

  • 全地球規模 
    • 成層圏にひろがるエーロゾル(おもに硫酸液滴) 
    • 熱帯の噴火だと両半球に影響。継続およそ2年 
    • 太陽放射を反射 → 地上の日射量すくない、地上気温低い 
      • → 大陸の全河川流出量すくない(1991年Pinatuboの例) 
    • 成層圏では太陽放射を吸収→高温 
      • → 大気力学とからんで地域により正・負の地上気温偏差 
  • 全地球ではない広域 
    • 対流圏を流れるエーロゾル(硫酸液滴、火山灰など) 
    • 時空間的に不均一な分布。噴火継続中とその後数日間。 
    • 地上の日射量すくない。太陽が赤く見える。 
    • 毒性の害も(例、1783年Laki噴火時のヨーロッパ) 
  • (気候・気象のセンスでは)ローカル 
    • 溶岩、火山弾、火砕流、降下火山灰・軽石、泥流 
    • 直接の人体や農作物への害、水流せきとめの影響

----- p. 9 -----
気候の不均一性、気候のインパクトの不均一性

  • 「小氷期」「中世温暖期」 
    • ヨーロッパ、東アジア、北アメリカ東部におおまかに共通 
    • かならずしも世界全体の寒暖ではない。(熱帯太平洋は?) 
  • 寒暖と乾湿の共存傾向 (おもに夏に注目) 
    • ヨーロッパと日本では  寒冷=湿潤、温暖=乾燥の相関 
    • 中国(具体的にどこ?)  寒冷=乾燥、温暖=湿潤の相関 
  • 日本列島のうちで気候偏差がちがう構造の例 
    • 梅雨前線帯の雨、亜熱帯側の晴れ、冷温帯側の晴れ 
    • 冬の季節風型。日本海側で雪、太平洋側で晴れ 
    • 夏の「やませ」。東北日本太平洋側で霧、日本海側で晴れ 
  • 同じ気候偏差のインパクトがちがう構造の(単純化した)例 
    • 夏の高温
      • 東北日本では豊作 
      • 西南日本の天水田ではかんばつ 
      • 西南日本の灌漑条件のよいところでは豊作 

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気候の情報として何を提供できるか?
地点ごとの時系列よりもむしろ空間的パターンを重視したい。

  • 変量・時刻をそろえて空間分布を見る (おもに水平2次元×時間)
  • データ同化(物理モデルと観測値の混成、原理上は3次元×時間)

機器観測がなかった時代について使えそうな変量

  • 日射量 (雲の効果の因子) ←天気
  • 気温 (天気情報から気温の数値を得るのは一般的には困難)
    • 雨雪境界では可能。ただしローカルな変異に要注意。
  • 降水・乾湿 (降水量として得るのは困難)
    • 降水日数、降水の激しさ←天気; ・湿度←年輪酸素同位体

気象同化あるいはシミュレーションの外部条件となる情報

  • 海面水温 ←海洋の同化で、サンゴその他の同位体情報から
  • 温室効果気体 ←氷床コア (完新世の工業化前は変化すくない)
  • エーロゾル ←氷床コアの硫酸イオンなど (観測位置が偏る)
  • 太陽活動 ←炭素14、ベリリウム10 (放射強制への換算不確か)

----- ここまで -----