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表意文字、表語文字

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「漢字は表意文字か?」というような議論を見かけたので、考えを整理してみたくなった。

わたしは1960年代の子どもとして、小学校・中学校の「国語」の参考書で、「かな や ローマ字は表音文字、漢字は表意文字だ」と ならった。

なお、漢字の文字と意味との関連について、中国の古典に出てくる「象形、指事、会意、形声、転注、仮借」という用語を使いながら、例をしめされているのをならった。

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1970-80年代の学生として、言語学の、専門書というほどではないが専門概念を紹介する本で、漢字は「表意文字」ではなく、分類して名づけるとすれば「表語文字」だ、という主張を読んだ。今では、それは専門家の主流の認識らしい。

中国語の単語は複数の音節からなる場合もあるが、1音節の要素からできていることは明確だ。漢字は、この1音節の語要素それぞれを表現したものなのだ。意味が近くても、発音が似ていなければ、別の語要素として認識されるから、同じ字では書かれない。

言われてみれば、そうだと思う。

とくに「形声」文字は、そのたてまえどおりならば、「形」のほう(「意符」、多くの場合「へん」)は、意味のおおまかな分類を示していて、「声」のほう(「音符」、多くの場合「つくり」)は、発音を示している。おもにつたえられているのが意味と発音のどちらかといえば、発音のほうだろう。ただし、「音符」とされている部分が同じ字どうしで、意味の共通性が指摘されることもある。同じ「単語家族」(藤堂 明保 氏の著書で使われていた用語)に属する語要素が、同じ「音符」で書かれて、細分のために「意符」がつけられた、とも考えられる。

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では、意味をあらわす「表意文字」はないのだろうか。

いわゆる自然言語を記述できる文字体系としては、ないのだろうと思う。

記述対象を限定すれば、ある。数学記号は表意文字だと言ってよいだろう。

数学記号の部分集合とも考えられる算用数字についてみると、「8」は、日本語で「ハチ」と読まれても、英語で「[eit]」と読まれても、同じ意味をもっていると言ってよいだろう。

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しかし、日本語での漢字は、「表語文字」だと言ってよいのか、疑問も感じる。

同じ字が、音よみ、訓よみで、日本語の複数の語に対応する。訓よみだけでも複数あることがよくある。

日本語での漢字は、鋭い意味[注]での表語文字ではない。

  • [注] 「狭い意味、広い意味」という表現がさすのとだいたい同じことなのだが、わたしは、「鋭い意味、鈍い意味」という表現がよいと思っている。

「語をあらわす」ことから、どういう方向にずれているかを考えると、意味がだいたい同じならば、別の語でも、同じ文字であらわせる、ということだ。そのことに注目すると、日本語での漢字は「表意文字」だといえるかもしれない。ただしこれは「表意文字」ということばの鈍い意味の使いかただ。2節で中国の漢字をはずし、3節で算用数字を含めた、鋭い意味での「表意文字」ではない。「表語文字」という用語を鋭い意味で使いながら、「表意文字」のほうは鈍い意味で使って、分類を考えるのは、うまくない。

わたしなりに公平な表現をしようとつとめてみると、日本語での漢字は「鈍い意味での表語文字」であり、それを鋭い意味で示す分類用語は まだない、というのが妥当だと思う。