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地球環境観測データの利用に向けて希望すること

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これは、地球惑星科学連合の2010年5月の大会の、「地球環境観測データの行方および未来」というセッション(呼びかけのページ)のための予稿である。わたしはこのセッションのコンビーナー(呼びかけ人)のひとりになっている。

(実のところ、わたしには希望することに向けての働きがほとんどできていないことが恥ずかしい。しかし、わたしができることのうちでいちばん役にたちそうなことは総論を述べることにちがいない。)

お世話になっている組織や事業の固有名、参考文献などにもふれるべきだが、字数制限のある予稿なので省略してしまっている。

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地球環境観測データの利用に向けて希望すること

増田 耕一 (海洋研究開発機構)

人間社会は、更新可能エネルギー資源を使っていくために、太陽光、風力、水力、光合成量などの環境変数の時空間構造を把握する必要がある。また、変化していく気候に適応していくための基礎データとしては、数値モデルによる予測型シミュレーションの結果の役割が大きいが、それを評価し、また修正して利用するための材料として、観測データも重要である。

世界各国が観測およびデータの収集・整理・交換ができるように、各国の能力レベルに応じた能力開発を含めた科学技術協力が必要だ。各国のデータを合わせて使うためには、データ提供ポリシーの調整も必要となる。知的公共財としてデータを共有していく機運を作るとともに、知的所有権を尊重してデータを共同利用するしくみも作っていく必要がある。研究プロジェクトによる観測や過去のデータの掘り起こしの成果を長期にわたって利用可能に維持する体制もほしい。

データの利用形態は多様だ。ウェブサービスの形をとることがふえるだろう。しかし、環境影響評価や資源評価などに従事する人を含めた広い意味の研究者は、計算機にログインして自分のプログラムを使って処理することが多いだろう。ウェブサービス提供者と、計算機上で利用したい人の両方が、データを検索してダウンロードできるような、データ提供サービスが必要だ。ダウンロード前にブラウズ、切り出し、平均化などの処理もできたほうがよい。データ提供サービス機関は分散していてよいが、発見・アクセスをしやすくするためメタデータを標準化・共有するべきだ。

これに加えて、大量なデータを複数種類組み合わせて使いたい需要に応じるため、データアーカイブと計算機システムが直結した統合システムもあることが望ましい。統合アーカイブのログイン利用者は限定する必要があるが、所属機関にかかわらず、利用計画を示して社会的意義や科学的価値を認められれば使えるのが望ましい。利用者間でデータ利用技術を含めた知識の交流も活発に行なわれる場であってほしい。このようなシステムが有効に働くにはユーザーサポートの機能が必要となる。このうち、データの内容に関するサポートはデータを提供する別機関がしてもよく、使い方のサポートの一部はユーザー間の助け合いによることができるだろう。統合アーカイブをもつ機関は、計算機システムの管理、データの管理(データポリシーに従ったアクセス制限を含む)、ソフトウェアの整備と利用サポート、データとそのドキュメントの入れものの整備および利用方法サポート、ユーザー間の助け合いの場の確保などをおもに担当することになるだろう。統合アーカイブは、データをより多くの利用者がダウンロードするためのアーカイブも兼ねるのが現実的と思われる。

統合アーカイブや大規模データ提供サービスの長期的運用に適した機関は日本を含むアジアにはまだないように思われる。制度設計を含む政治判断が必要だ。日本の現業機関の多くはデータを国民に提供する機能をもつが、さらに、他機関のデータと組み合わせることや、外国からの利用をサポートする機能がほしい。研究開発機関や大学では時限の技術開発はできるが、長期運用のためには、計算機センター、図書館、博物館などと同類の新種の組織が認知されることが必要だ。さらに、アジア規模のデータ共有や世界規模への貢献のためには、複数の国のデータを受け入れ、複数の国の利用者をサポートする必要がある。日本国の国際貢献と位置づけて続けるべきか、複数の国による組織を作るべきか。

またデータ共有のためには、自然言語間と専門分野間の用語の壁を越える必要がある。対応する概念があって表現だけが違うのであれば、用語辞典の自動検索がメタデータ検索と連動することが有効だと期待される。概念体系が違う場合のためには、辞典よりは詳しく専門教育よりは単純化した知識パッケージを整備し、また質問に答えられる人を確保することが望ましい。自然言語に関しては、英語を各国語との間の翻訳を意識したハブとして使っていくべきだろう。