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IPCC 第6次評価報告書 (AR6) の 第1作業部会 (WG1, 自然科学的基礎) の巻が出た

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

日本時間でいうと 2021年8月9日 (月) の17時に、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) の第6次評価報告書 (AR6) のうちの、第1作業部会 (WG1) の報告書「自然科学的基礎」が発表された。報告書の文書ファイルは、IPCC のウェブサイト http://www.ipcc.ch のうちの、http://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/ の下に置かれている。

IPCCは政府間機関だから、その正式な意思決定は、各国政府代表が参加した総会による。ふつうは世界のどこかに代表者があつまるのだが、今回はオンラインで7月26日から8月6日までひらかれた。総会は、報告書の「政策決定者むけ要約」(SPM) を、語句まで検討して承認 (approve) し、報告書の本体を「受諾」(accept)した。

SPM は語句までさだまったので あとは印刷用の割りつけだけだが、報告書本体は、最終段階の修正点の一覧表がつけられた形で、ひとまず IPCC ウェブサイトに章別のPDFファイルの形で置かれている。本として完成するのは、2021年末ごろになる見こみだ。

日本政府からの報道発表は、気象庁ウェブサイトのつぎのページにある。

  • (気象庁) 各種申請・ご案内 > 報道発表資料 > 令和3年報道発表資料 > 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について http://www.jma.go.jp/jma/press/2108/09a/ipcc_ar6_wg1.html

気象庁では、IPCCの第5次評価報告書の第1作業部会の巻 (2013年) について、全訳ではないがかなりくわしい内容をつぎのページで公開している。

【[2021-08-27 補足] AR6 についての同様なページがつくられた。

そこに、8月20日、SPM の (暫定) 日本語訳 が置かれた。】

ひとまずSPMを紹介する headline statements を読んでみた。日本語訳が、気象庁ウェブサイトの報道発表の「別添1 IPCC AR6/WG1報告書の政策決定者向け要約(SPM)の概要」 (PDF http://www.jma.go.jp/jma/press/2108/09a/ipcc_ar6_wg1_a1.pdf ) にある。

SPM の見出しは次のようになっている (日本語表現は headline statement の気象庁暫定訳によった)。

  • A. 気候の現状
  • B. 将来ありうる気候
  • C. リスク評価と地域適応のための気候状況
  • D. 将来の気候変動の抑制

すでに起こった気候の変化についての確信度の高い主張から議論をはじめられるようになった。IPCC が第1次報告書をだした 1990年ごろは、すでに起こった変化については強い主張ができず、第1部会の論点は気候システムに関する理屈がおもだった。それ以後に実際に気候が変化したことと、過去の観測記録のほりおこしをふくむ研究がすすんだことの両面があって、議論の内容もかわってきたのだ。

「(いわゆる) 予測」としては B の部分が重要だ。

  • B.2 で、「極端な高温、海洋熱波、大雨、いくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度、強い熱帯低気圧の割合、並びに北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小」がすすむことが予想されること
  • B.4 で、人間活動起源の二酸化炭素を海と陸が吸収してくれるはたらきが弱まると予想されていること
  • B.5 で、氷河や凍土の融解と海水の増加は百年から千年の時間スケールで不可逆的だと予想されていること、などだ。

Dのところで、「温室効果ガス排出を削減する必要がある」と言っているように見え、IPCC が科学的知見をまとめるやくわりをこえて政策提言をするようになったのかと感じた。しかし、「必要である」には「人為的な地球温暖化を特定のレベルに制限するには」
という条件がついている。SPMの内容をみると「特定のレベル」とは、世界平均地表温度が 1850-1900年のレベル +1.5℃ とか +2℃ とかいうものである。執筆者各人のおもわくはともかく、IPCCという組織のたちばとしては、「知見をまとめる」うちに、このような条件をあたえられた問いにこたえる知見もふくめた、ということなのだろう。

これまでのIPCC報告書についての情報は、別サイトのつぎのページにまとめた。