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「海上低層雲による気候変動緩衝」について (暫定メモ)

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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戎崎 俊一 (えびすざき としかず) さんがブログで気候変動について論じているという情報を得た。

参考文献として、つぎの論文があげられている。

  • 戎崎 俊一, 2023: 海上低層雲による気候変動緩衝。TEN (Tsunami, Earth, and Networking), 4: 52-67.

この出版物は 学而図書 https://www.gakuji-tosho.jp/ という出版社の刊行物のウェブページで紹介されていたが、発行日は 3月25日で、まだ出ていないようだ。有料出版物で、わたしはまだ買うかどうか決めていない。もし読んだらわかったことを、このブログ記事に追加するか、別の記事として書きたい。

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ひとまず、ブログ記事で何が論じられているかを見てみた。これは、気候変化のしくみに関する自然科学の議論だ。気候変化への対策の議論ではない。そして、大気中の二酸化炭素濃度がふえると対流圏や地表の温度が高くなるしくみがあることは前提とされている。「地球温暖化」否定論ではない。しかし、負のフィードバックがあるので、温度上昇の大きさが、IPCCで標準的とされているよりもだいぶ小さくなるのだ、という主張だ。

とりあげられているのは、海上で、対流圏下層に、上の方が温度が高いような「逆転層」が生じ、そのすぐ下に雲ができやすくなっている状況だ。そこで、なんらかの理由 (たとえば二酸化炭素の増加) によって対流圏の温度が上がったが、海面水温は変化しないとする。すると、逆転層の温度逆転がつよまり、それをつきぬける対流がおきにくくなるから、その下の雲が持続しやすくなる。エネルギー収支のうえでは、下層の雲はおもに太陽放射を反射して地表に達する太陽放射をへらす働きと、雲頂から上向き地球放射を出してその場の温度を下げる働きをするから、地表に達するエネルギーが少なくなり、そのことは地表温度を下げるように働く、という理屈だ。

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わたしも、そのようなフィードバックは現実の気候システムのうちにあるだろうと思う。しかし、さまざまな変化が同時におこっているうちで、この因果連鎖が重要になるとは、わたしには思えない。ただし、わたしはこの問題を体系的に議論する用意ができていない。もし議論できるかたがいればおしえていただけるとありがたい。

ひとまず思いあたったことを書いておく。

まず言えることは、ここで論じられている因果連鎖がなりたつのは、大気下層に逆転層が継続して存在するところであり、それは、地球の海上全部でないだけでなく、亜熱帯の海上全部でもなく、各海盆の亜熱帯の東の端に近い海域にかぎられることだ。

それから、対流圏の温度が上がるけれども、海面水温は変わらないという仮定が適切かどうかだ。

  • 対流圏の温度が上がるならば、逆転層の高さでの温度も上がる。したがって、その下にできる雲の雲頂温度も上がる。雲底温度がどうなるかは単純ではないが、雲の厚みがあまり大きく変わらなければ雲底温度も上がるだろう。すると、地表に達する下向き地球放射 (赤外線) がふえる。これは地表温度を上げるように働く。
  • また、逆転層が生じていない海域では、対流圏の気温と海面水温とはおそらく連動して上がるだろう。そういうところからの水平移流も、逆転層が生じているところの海面水温を上げるように働くだろう。

さらに、雲ができる条件には、上昇流・下降流が大きな影響をあたえる。ブログ記事で見るかぎり、戎崎さんは、従来の気象モデルの鉛直分解能があらいことを批判しているけれども、水平方向にどのような不均一が生じ、それが雲ができる条件や鉛直方向のエネルギー輸送にどのような影響をあたえるかを、検討していないようだ。

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わたしは気候変化に対する低層雲によるフィードバックについて系統的に文献調査をしていないが、ひとまず検索でみつけた文献をあげておく。いずれも、個々の雲のできかたにはたちいらず、衛星観測による広域の雲と放射フラックスの収支にもとづいて議論している。

  • Stephen A. Klein, Alex Hall, Joel R. Norris & Robert Pincus, 2017: Low-cloud feedbacks from cloud-controlling factors: A review. Surveys in Geophysics, 38: 1307–1329. https://doi.org/10.1007/s10712-017-9433-3
  • Ryan C. Scott, Timothy A. Myers, Joel R. Norris, Mark D. Zelinka, Stephen A. Klein, Moguo Sun & David R. Doelling, 2020: Observed sensitivity of low-cloud radiative effects to meteorological perturbations over the global oceans. Journal of Climate, 33: 7717-7734. https://doi.org/10.1175/JCLI-D-19-1028.1

もうすこし探索したうえで読むべき文献をえらんで、議論することにしたい。