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科研費「学術変革領域研究」(仮称)の応募要件に関する要望

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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2019年8月、科学研究費の「新学術領域研究 (研究領域提案型)」に提案をしようとしていた人たちの議論に参加した。仮に「Xグループ」と呼んでおく。わたしが Xグループ の一員であるかどうかは微妙だが、首尾よく研究費がついたばあいにその配分をうけるたちばにはなりそうもないので、ここでは他者のたちばでのべる。

来年度(2020年4月以後に研究費がつけられる年度、という意味)から、制度の変更がされることになっていて、これからあたらしくできる研究領域は「新学術領域研究」ではなく、「学術変革領域研究 (仮称)」 となる。その応募要件はまだ発表されていない。Xグループの集まりでは、非公式に知った情報にもとづいて、Xグループがめざす研究領域の提案が応募できるだろうかという議論がされていた。もし非公式に得た情報どおりにきまるのならば、Xグループにとっては苦しい。わたしが他者のたちばでかんがえて、Xグループが不満な点は、Xグループだけでなく日本の学術全体のために、変えることを要望したいと思った。

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非公式情報だけではどうしようもないので、公式情報にあたることにした。

日本学術振興機構(JSPS)の「新学術領域研究 (研究領域提案型)」のページはここにある。https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/34_new_scientific/index.html そこには、今(2019)年度に研究がはじまった領域の情報や、それが選定されるにいたった昨年度の募集要項などはあるが、制度変更に関するお知らせなどはない。

そこから「科研費の応募・審査・評価等 〈文部科学省HPへのリンク〉」をたどってみると、
文部科学省の「科学研究費助成事業-科研費-」http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/main5_a5.htm のページに行く。そこにも、今年度はじまった研究の情報はあるが、制度変更の情報はみあたらない。

その「審議会情報」というリンクをたどると、「審議会情報」[科学技術・学術審議会] のページがある。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/1284543.htm
その[報告・答申等]の最新のものは「2019年1月25日 第9期研究費部会における審議のまとめ」だ。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/041/houkoku/1413368.htm
その報告書 (PDF http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/041/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2019/02/04/1413368_01.pdf )を見ると、「今後の検討課題」のうちに「「新学術領域研究」の見直し」はあるけれども、見なおしの結果にはいたっていない。しかし、それはおそらく、同じ審議会の第10期研究費部会で議論されているにちがいないと思った。

あらためて文部科学省のトップからたどって
トップ > 政策・審議会 > 審議会情報 > 科学技術・学術審議会 > 学術分科会 > 第10期研究費部会
のページに行った。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/045/index.htm
「最新の議事要旨・議事録・配布資料」のところを見ると、2019年7月31日に開かれた会議の配布資料がある。(その回の議事要旨や議事録はまだない。)

その配布資料のページには、次の資料がある。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/045/shiryo/1419904.htm

  • 資料1-1 学術変革領域研究(仮称)(B)の位置付けについて(案) (PDF:132KB)
  • 資料1-2 学術変革領域研究(仮称)における重複制限について(案) (PDF:168KB)
  • 資料1-3 新学術領域研究(研究領域提案型)の見直しについて(案) (PDF:352KB) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/045/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2019/08/07/1419904_003.pdf
  • 資料1-4 科学研究費助成事業「学術変革領域研究(仮称)」の新設 (PDF:440KB) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/045/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2019/08/07/1419904_004.pdf
  • 資料2-1 科研費改革の当面の取組について(令和2年度概算要求に向けた考え方等)(案) (PDF:635KB)
  • 資料2-2 科研費改革の当面の取組について(令和2年度概算要求に向けた考え方等)(案)【関連資料】 (PDF:3828KB)
  • 資料3 科研費審査結果一覧(令和元年度新規採択分速報値)(第2回) (PDF:34KB)
  • 資料4 第10期研究費部会の今後のスケジュールについて(案) (PDF:98KB)

表題から、資料1-3と1-4が求めるものだと思ったので、それだけダウンロードして目をとおした。ここにもそれだけリンクをしめしておく。

これは審議会の分科会の部会に、おそらく事務局である文部科学省の官僚から、提案された内容であって、部会の結論がそのとおりかどうかは、ここからはわからない。また、審議会の結論がそのまま行政機構としての文部科学省の政策に採用されるかどうかもわからない。そう位置づけながら、これを見て、意見をのべることにする。

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まず、比較的単純な件についてのべておく。

現行の制度の「新学術領域研究」の研究領域提案の審査の審査区分は、「人文・社会系」「理工系」「生物系」「複合領域」の4つがあった。

ところが、非公式情報によると、「学術変革領域研究」の審査では「複合領域」がなくなるみこみだそうだ。

(Xグループにとって、これはとてもこまったことだった。提案しようとする領域は、すくなくとも「人文・社会系」と「理工系」にまたがっているし、「生物系」の内容もふくむかもしれない。提案の主題はどちらかといえば人文・社会系だが、提案者の実績はどちらかといえば理工系だ。)

しかし、部会の7月31日の資料1-3の4ページをみると、「引き続き、科学研究費補助金審査部会における議論を踏まえて検討」とある。まだ決定はされていないようだ。(わたしは「科学研究費補助金審査部会」の議事資料をまだ見ていないが。)

学術政策全体についてならば、この10年ほど、「学際」や「文理融合」でないといけない(予算がつかない)ような風潮があって、形式的に専門のちがう人を入れた研究組織をつくったけれど、実質的に議論がかみあわなかった、といった反省がある。小規模な研究費の課題については、(ふたたび)学術ディシプリンごとに評価することにシフトするのはただしいのかもしれない。

しかし、あたらしい学術領域をつくろうという提案を審査するばあいにかぎっては、これまでの区分にまたがる提案を出しやすくするべきだと思う。「学術変革領域研究」の審査区分には、「複合領域」にあたるものをぜひつくってほしい。 (それに応募する場合には、審査にあたって評価してほしい「人文・社会系」「理工系」「生物系」の重みづけを書かせる、といったくふうがあってもよいと思う。)

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比較的むずかしいほうの件は、いわゆる若手研究者登用に関するものだ。(「若手」というよりも、英語でいえば early career researchers というべきだと思うが、うまい日本語表現がないので、留保つきで「若手」と表現することにする。)

「学術変革領域研究 (仮称)」のうち、これまでの「新学術領域研究」にわりあい近い構成となる「(A)」のほうの「研究領域の構成」は、計画研究と公募研究からなっているのだが、(7月31日の会議の資料1-3の2ページによれば) 公募研究のほうに、つぎのような条件がつけられている。

総採択件数の半数程度が若手研究者(博士の学位を取得後8年未満又は39 歳以下の博士の学位を未取得の研究者)となるよう若手研究者を積極的に採択。

研究組織に若手研究者を入れるべきだということは、もちろん、もっともだ。とくに、あたらしい学術領域をつくろうとするならば、それを今後数十年にわたって発展させることができる人にはいってもらうべきだ。

問題は、科学研究費を申請できるたちばにある若手研究者の人数があまり多くないことだ。国が研究機関とみとめる職場(大学をふくむ)に所属し、所属機関が科学研究費申請をみとめるような職種についていないといけない。形式的に申請可能なたちばにあっても、現在の雇用が何かの職務に専念することを条件としていて、それと別の内容の研究費にかかわると職をうしなう見こみであるばあいには、実質的に申請できないだろう。

この状況は、最近20年の国の政策が、継続的に人を雇う人件費に使える運営費をけずり、時限の研究費ばかりをふやしてきたせいだ。それを変えてほしいと思うが、国の政策全体におよぶおおごとだ。

しかし、学術変革領域の研究組織のうちに若手研究者を多くすることがねらいならば、制度を少しかえれば可能だと思う。公募研究の代表者が、採択されれば学術変革領域の科研費でやとわれる人でもよいことにしてほしい。そういう条件ならば、大学院をおえてまだ定職がない人、研究職とみなされない研究補助職などについている人、自営業になっている人などが応募できるし、そういう人の所属機関になってくれる機関もあるだろう。

もちろん、科研費の期間がおわるとそれで雇われていた人の職がなくなる、という問題はある。領域代表者にも国にも、職の保証はできないだろうが、職がある確率が高まる見とおしはほしい。そのような研究領域提案をえらぶ必要があるのだと思う。

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4節に引用した「若手研究者」の定義はややこしい。Xグループにとどいた非公式な情報では、ここが「39歳以下」だけになっていた。そして、それではこまる、という意見がまきおこったのだった。これまでの学術分野をこえた研究をする人は、複数の学術分野の勉強をしてきた人や、学術の仕事と学術でない仕事の両方を経験してきた人であることが多い。そういう経歴だと、ひとつの分野だけで勉強してきた人にくらべて、博士号をとったり、独立した研究成果を出したりする年齢が、高めになる。

4節の議論は、資料1-3の「博士の学位を取得後 8年未満」を基本とした定義が採用されることを前提とした。それを「若手」とよぶのはうまくなく、まえにのべたように early career researchers にあたる日本語表現が必要だと思うが。

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わたしは、ブログに書いているだけでなく、実際に国 (文部科学省) にはたらきかけるべきなのだと思う。しかし、きょうの段階では、どう行動するかの判断ができていない。