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梅はさいていたか

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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「令和」の出典となった、万葉集第五巻の文章によれば、天平二年正月十三日に、大宰府で、梅の花をみる宴があって、出席者がそれぞれ歌をよんだことになっている。それ自体がフィクションであることもありうるが、たぶん事実の記録だろうという感じがする。

いまの暦にすれば、2月上旬だから、梅の花がさいているのは、ありそうなことだと思った。

ところが、ネット上で、たてつづけにふたつ、実際には梅の花はさいていないのに、空想で梅の歌をつくったのだろう、という論を見た。それで、わたしは自分がまえに考えたことをうたがった。

ところがところが、ふたつの論を読んでみると、一方は、梅の花がさくのはもっと早い時期だったはずだ、他方は、もっとおそい時期だったはずだ、と言っているのだった。筆者はそれぞれちがった梅の品種を想定していたらしい。それを知ってみると、わたしは梅の品種のくわしいことはわからないが、やはり、宴の日に梅がさいていたこともありそうだと思った。

花がさく時期をきめる要因として、品種、気候、木の樹齢や栄養状態などがあると思う。ひとまず、わからない要因はいずれもいまと同様だと仮定して、つじつまがあうかどうか考えてみることにする。

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当時の暦は太陰太陽暦だが、季節を考えるうえでは、太陽暦に換算してみたほうがよいだろう。

関野 樹 [せきの たつき] さんによる HuTime をつかって換算してみると、天平二年一月十三日は、西暦73024日だ。ただし、ここで仮に「西暦」としたものは、グレゴリオ暦の1582年10月15日以後はグレゴリオ暦、そのまえはユリウス暦を組み合わせたものだ。グレゴリオ暦が制定されるまえもあえてグレゴリオ暦で通す「先発グレゴリオ暦」という方式で換算すると、28日となる。

西洋で使われていた暦に換算するという趣旨からは、奈良時代はユリウス暦制定後でグレゴリオ暦制定前だから、ユリウス暦を使うのが妥当だといえる。

しかし、自然現象の季節を比較するばあいには、1年のながさ(地球の公転周期)を より精密に表現したグレゴリオ暦でとおしたほうが妥当だといえる。宴の日付は2月8日で考えたほうがよいと思う。

もっとも、自然現象を論じるうえでは、自然現象である地球の公転(みかけの太陽の運行)に即した、春分・夏至・秋分・冬至という体系をつかったほうが筋がとおっている。東洋の伝統では、冬至と春分の中間点が「立春」だ。暦法(暦の計算方式)によって、立春の日付は1日ぐらいずれるかもしれないが、大きくずれることはないだろう。(当時の日本の暦法は唐の「麟徳暦」だが「儀鳳暦」とよばれていた。) 宴の日付は「立春からなん日後」という表現で比較したほうがよいのかもしれない。(ここではその計算をさぼってしまうことにする。)

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いま、梅の花がさくのはいつごろだろうか。

気象庁では、まだ「中央気象台」だった1950年代から「生物季節観測」をしていた。有名な例としてはさくらの開花がある。しかし最近、生物季節観測の業務は縮小している。気象業務のうちで、自動化された機器による観測のおもみが大きくなり、かぎられた予算のうちでは人が観察しなければわからないものを続けるのがむずかしくなったのだ。気象庁のウェブサイトをみても、生物季節観測の情報は、すぐ見つかるところにはない。

しかし、さいわい、福岡管区気象台のウェブサイトには生物季節観測のページがある。

「生物季節観測状況」の最初の項目として、うめ の開花がのっている。それによれば、福岡(中央区大濠)での うめ の開花日は、平年 2月2日、最早 1月2日(1969年)、最晩 3月13日(1981年)。観測期間がわからないが、他の項目の「最早」に1952年があるので、そのころかららしい。2019年も観測は続けられている。「平年」の説明もないが気象庁なので1981-2010年の平均だろう。

ここには毎年それぞれの開花日の情報がないのでくわしいことはいえないが、開花日の年々変動がかなり大きいことがわかる。「最早」のほうが「最晩」よりもまえにおきているけれども、たぶん、開花がおそくなる傾向があるわけではないだろう。

福岡と大宰府とでは気候がすこしちがうだろう。大宰府にアメダスの観測点があるから、福岡の気象台での観測値と比較すれば、気温などの系統的なちがいがあればわかるだろう。

ひとまずおおざっぱに、福岡と大宰府とのちがいを無視し、梅の品種が福岡管区気象台が観測しているものと同じだと仮定すれば、2月8日に梅の花がさいていることは、確実とはいえないが、可能性が高いとはいえそうだと思う。ただし「平年、最早、最晩」だけによる議論はおおざっぱすぎる。この仮定のもとでも、きちんと言うためには、福岡管区気象台から毎年の開花日の情報を提供してもらって頻度分布を見るべきだと思う。(しかし、わたしはこの問いの答えをそれほど本気で追求していないので、気象台をわずらわせるのは遠慮して、ここでとめておく。)