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太陽活動による気候の変動が見えているのだろうか?

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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学会で、ある研究者の講演をきいた。

ある地質時代の湖成堆積物(現在の湖ではない)に「年縞[ねんこう]」つまり年をかぞえることができるような層の構造がある。そこでは、夏には光合成の生産が大きくなるから生物化石由来の粒子が多くなり、冬には砕屑物のわりあいが多くなる、というしくみで縞[しま]もようができたのだ。層の厚さの年々変動は、その湖での光合成生産量の年々変動をあらわしていると考えられる。

層の厚さには、約11年周期の変動が見られる。周期解析をしてみると、そのほかに、10年から100年の桁の複数の周期成分がみとめられる。その周期は、現代の太陽活動(おもに太陽黒点数の変動)についていろいろな人が指摘したものと似ている。もっと直接的に太陽活動をあらわす指標は得られていないそうだ。しかし、講演者は、周期性にもとづいて、これは太陽活動の影響が見えているにちがいないという論調で議論を進めていた。

気象観測のある現代の太陽活動と気候の関連についての議論(たとえば Haigh and Cargill, 2015)を背景として考えてみると、これは、あやうい議論だと思う。だれかが何かの気象変数と太陽黒点数のあいだに相関関係をみつけて因果関係がありそうだという議論をしたが、データの期間をのばすと相関が悪くなった、ということが、たびたびあった。そして、気候システム(大気・海洋・雪氷などをあわせたもの)は、外からの強制がなくても、10年から100年の桁の周期帯の(あまり明確な周期がない)変動を自励的におこすことができるようだ。

堆積物にみられた周期性について、それが太陽活動への応答だという仮説にもとづいて研究を進めるのはよいと思う。しかし、そうであると思いこむのではなく、無関係である可能性も考慮に入れて考えるべきだと思う。これは、ひとりひとりの研究者がではなく、研究者集団として達成すべきことかもしれない。つまり、太陽活動が原因だと思う研究者はその考えで研究を進めて成果を発表して、ほかの研究者が別の考えでそれを再検討すればよいのだ。ただしそのためには、最初の研究者が成果を発表する段階で研究過程のデータを広く提供することが必要になると思う。

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この講演でもうひとつ気になったのは、講演者が、太陽活動から光合成生産への連関が、気候を介するものであり、したがって、この研究成果を、太陽活動からグローバルな気候への影響を見いだしたというふうにとらえていたことだった。講演者も、現代の気候に太陽活動への応答があまり明確に見えないことは認識していたようだが、その堆積物が堆積した時代には応答を強化するしくみがあったのだろうと論じていた。

わたしは、堆積物に太陽活動の影響が明確にあらわれたとしても、グローバルな気候への太陽活動の影響があらわれたとは言いきれないと思う。

(当然ながら、もしその場の生態系の光合成生産量の制約要因が光であって、その場の地表に達する日射量が変化すれば、影響があらわれるだろう。それはローカルな因果関係なのだが、日射量の変化がもし直接に太陽活動によるものならば、その変化は世界じゅうに同様におよぶだろうから、グローバルな気候の変化ともいえる。もしこういう話ならばわかりやすいのだが、講演の議論はそうなっていなかったと思う。おそらくこの因果関係で得られる応答は堆積物に見られるものにくらべて弱すぎるのだろう。)

わたしは、太陽活動から湖や湾の光合成生産量への因果連鎖としていちばんありそうなのは、反応性窒素(窒素分子以外の化合物やイオンとなった窒素)だと考えている。太陽活動が活発なときに、大気中での窒素の酸化反応が活発になるような、なんらかのしくみはありそうだと思う。そして、特定の湖や湾の光合成を制約する要因がもし反応性窒素ならば、そこでの光合成生産量はそれに応答して変化するだろう。(ただし、人工的窒素固定がされるようになって以後は、この因果連鎖は働かなくなっただろう。) もうすこしくわしく、[2010-10-22の記事]に書いた。もしそうだとすると、中間項は、大気の変化ではあるが、グローバルな気候の変化とはいいがたいと思う。ただし残念ながら、わたしはこの考えを研究として検討しておらず、この説を積極的に主張することはできない。

しかし、ともかく、太陽活動から堆積物への影響を考える際には、個々の研究者ではなく研究者集団として、中間項がグローバルな気候でない可能性も検討していただきたいと思う。

文献

  • Joanna D. Haigh & Peter Cargill, 2015: The Sun’s Influence on the Climate. Princeton University Press. [読書メモ]