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最近約千年間の気候変化についての勉強途中の覚え書き

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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歴史時代の気候変化とそれに対して人間社会はどう(適応を含めて)応答したかを考えたいと思っている。しかし、わたしの歴史時代の気候変化の実態に関する認識はあやふやだった。

それで、最近、中塚 武さんの講演の動画を聞いた [2018-07-03「気候適応史プロジェクトの話を聞いて考えたこと」]。また、Lieberman & Gordon (2014)、Behringer (2010 / 2013)、Hsü (2000)などの、気候変化と人間社会の関係を論じた本や、山川ほか(2017)の事典の関連箇所を読んだ。

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ヨーロッパや北アメリカ東岸で、西暦850-1200年ごろが温暖で「中世温暖期」、1250-1850年ごろが寒冷で「小氷期」と呼ばれることがある。世界を見る場合は「中世温暖期」は不適切として Medieval Climate Anomaly (MCA)という表現も使われるようになり、たとえばIPCC第5次評価報告書の第1作業部会の巻(2013年)の第5章に採用されている。

これに関連して、これまでにわたしが得た知識を、あえておおざっぱにまとめてみる。(文献参照をするべきだと思うが、ひとまず省略した。) わたしが誤解している可能性もある。

ユーラシア・北大西洋の 温帯・寒帯の広域で、MCAには高温、小氷期には低温だったといえるようだ。そのうち少なくともアルプス以北のヨーロッパでは、MCAには高温・乾燥、小氷期には低温・湿潤だった。

他方、東南アジアの北半球側など、北半球の熱帯・亜熱帯では、MCAには湿潤、小氷期には乾燥だった地域が多い。(夏のモンスーンで雨がふるところでは、MCAにはモンスーンが強く、小氷期には弱かった、とも言われている。)

地中海の北側から西アジアと中国では、温帯の温度の傾向と亜熱帯の乾湿の傾向がかさなって、MCAには高温・湿潤、小氷期には寒冷・乾燥だったようだ。(中国の場合も夏のモンスーンの強弱で説明しようとする人もいるのだが、その理屈は再検討を必要とすると思う。)

しかし、(中塚さんの報告によれば) 日本では、MCAには高温・乾燥、小氷期には低温・湿潤だった。乾湿の傾向が、中国とちがい、ヨーロッパのほうに似ている。日本と中国の乾湿の傾向がほんとうにちがうのか、復元推定の材料や方法のせいでちがうように見えたのか、検討を必要とすると思う。

なお、南北アメリカでは、(人間社会の歴史との関連で)重視される気候要因は乾湿の変化、とくに乾燥化で、そのタイミングは地域によってちがい、かならずしもMCAと小氷期に同期していないようだ。

世界全体の気候変化を考えるうえでは、ここにあげなかった地域、たとえば熱帯太平洋も重要なのだが、わたしはまだ勉強ができていない。

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中塚さんは日本の夏の乾湿についての毎年のデータセットをつくり、社会変動との対比を試みた。それをふまえて、数十年の平均の乾湿よりも、そこからの変動のほうが、社会への影響が大きいと考えている(2018-07-03の記事の8節参照)。とくに、数十年(たとえば30年)の平均状態から一方に大きくはずれた状態が、数年間に複数回くりかえす、といった事態が、社会にインパクトをもたらすのだ。中塚さんが渡邊ほか(2014)の本で言っていたことでもあるが、わたしなりにいえば、人間社会は気候を周期成分にわけたときどのくらいの周期の気候変化に対して適応策をとるのか、という観点で考える必要があると思う。

Behringer (2010)やLieberman & Gordon (2018)も、小氷期がヨーロッパの人びとにとって困難の多い時代だったという議論の中で、それは平均的に寒冷だったからというよりも、極端な天候がたびたびあったからだ、と論じている。極端な冷夏や寒い冬が多いことが平均的に寒冷な気候をもたらしているともいえるので、平均的気候と極端な天候を分けて論じることは簡単ではないが、分けて考えられればそのほうがのぞましいと思う。

文献

  • Wolfgang Behringer, 2007; 5版 2010: Kurturgeschichte des Klimas. München: C. H. Beck. [わたしは直接見ていない。]
  • [同、英語版] Wolfgang Behringer; translated by Patrick Camiller, 2010: A Cultural History of Climate. Cambridge UK: Polity.
  • [同、日本語版] ウォルフガング ベーリンガー 著, 松岡 尚子[ひさこ], 小関[こせき] 節子, 柳沢 ゆりえ, 河辺 暁子, 杉村 園子, 後藤 久子 訳, 2014: 気候の文化史 -- 氷期から地球温暖化まで。丸善プラネット。[読書メモ]
  • Edward R. Cook, Paul J. Krusic, Kevin J. Anchukaitis, Brendan M. Buckley, Takeshi Nakatsuka, Masaki Sano, PAGES Asia2k Members, 2013: Tree-ring reconstructed summer temperature anomalies for temperate East Asia since 800 C.E. Climate Dynamics, 41: 2957-2972. https://doi.org/10.1007/s00382-012-1611-x
  • Kenneth J. Hsü, 2000: Klima Macht Geschichte (気候が歴史をつくる): Menschheitsgeschichte als Abbild der Klimaentwicklung. Zürich: Orell Füssli Verlag, 334 pp. ISBN 3-280-02406-4. [読書メモ]
  • Benjamin Lieberman & Elizabeth Gordon, 2018: Climate Change in Human History — Prehistory to the Present. London: Bloomsbury Academic. [読書メモ]
  • 渡邊 誠一郎, 中塚 武, 智弘 編, 2014: 臨床環境学。名古屋大学出版会。[読書メモ]
  • 山川 修治, 常盤 勝美, 渡来 靖 編, 2017: 気候変動の事典。朝倉書店。[読書メモ]