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東海地方(Donghai Difang)にて

205X年。ここは「大東亜共栄圏」である。ただしニホンゴ読みのダイトーアキョーエーケンは共栄圏公民権停止になりかねない政治的禁句だ。大東亜語言でダードンヤーゴンロンチュアンか、英語でthe Greater East Asian Commonwealthと言わなければならない。

大東亜語言は域内言語別人口で最大勢力である漢語をもとにつくられた。しかし第2勢力であるマレー・インドネシア語話者の強い要請により、声調の区別なし、有気音・無気音でなく無声音・有声音、文字はローマ字とされ、漢語とは別ものになった。

(たとえば、言語の名まえを「なになに語」というときの「語」は漢語では「語(yǔ)」だが、声調にも漢字にも頼れない大東亜語言で「yu」ではわけがわからなくなるので、長い「yuyan (ユーイエン、語言)」という形を使うのだ。)

ここは大東亜共栄圏の東海地方(ドンハイディーファン)である。この地方には日本列島、朝鮮半島遼東半島山東半島などが含まれる。ニホンゴ、ハングル、漢語の話者がほぼ同数ずつ混ざっており、いずれの母語でもない大東亜語言で会話している。

中国で東海(トンハイ)は日本でいうヒガシシナカイ、韓国で東海(トンヘ)は日本でいうニホンカイ、日本で東海(トーカイ)は太平洋に面した地域の名だった。それをみな尊重して広くそのあたりを東海地方とした。海の名まえはそれぞれつけなおされた。

東海地方では、地方公用語であるニホンゴが使えれば、消費者や単純労働者として生きるのにはさしつかえない。役所の窓口も週に少なくとも1日はニホンゴで応対できる人を配置している。ハングル、漢語に対しても同等の待遇がある。

しかし、事業主になったり、高等教育を受けたり、他の地方との間を行き来したりしたいならば、大東亜語言か英語の少なくともどちらかを使いこなせる能力が必要だ。