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「地球環境問題に立ち向かう『知』をどのように育てていくのか?」 (2014年9月6日) 第3報

2日前となりましたが、講演者のかたがたから講演要旨の原稿をいただきましたので、それを含めてあらためてお知らせします。講演要旨の追加と、講演プログラムの細かい修正以外は、学会ブログの7月22日の記事 http://blog.jssts.jp/2014/07/2014.html と同じです。なお今後も部分修正の可能性があります。
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2014年度科学技術社会論学会シンポジウム
地球環境問題に立ち向かう『知』をどのように育てていくのか?

 世界の人間社会は、生物多様性・物質循環・気候など複数の局面で地球環境の限界にぶつかっています。人間社会が持続可能なものになっていくためには、環境対策にとどまらず、開発のありかたにもかかわる社会の変容を必要とするでしょう。そのために、学術研究のありかたも変わっていく必要があるでしょう。
 第1に、研究活動にステークホルダー(stakeholder、利害関係者)が研究者と対等にかかわるべきだという考えがあり、特定地域の問題解決のためには、すでに実践されています。しかし、世界規模の問題解決には、このようにして得られた知を、もっと広い地域で、違った構成のステークホルダーとともに生かしていく必要があります。そこには、知を提供する側・受け取る側のそれぞれの課題があるでしょう。
第2に、研究者の社会への働きかけに、対立する立場のひとつを支持するアドボカシー(advocacy、唱道)を含むことがありえます。研究者にとっては、アドボカシーとのかかわりかたを律する規範が、社会的意思決定の側では、アドボカシーを含む知をどう使うかが課題となるでしょう。
 このシンポジウムでは、この2つの主題に関連する4人のかたの講演と参加者のみなさんとの討論を通じて、地球環境問題に立ち向かう『知』をどのように育てていくのか考えていきたいと思います。

日時:2014年9月6日(土)13:00〜16:30
場所:航空会館 501・502会議室
(東京都港区新橋1-18-1, http://kokukaikan.com/about/access )

※1:当日入場が可能です。また非会員の方もご参加が可能です。
※2:会場の都合上、会場が手狭になる可能性がございます。あらかじめご了解を頂きますようお願いいたします。

当日プログラム
13:00〜13:05 開会挨拶 藤垣 裕子(東京大学

13:05〜13:15 趣旨説明 増田 耕一(海洋研究開発機構

13:15〜13:45
堀尾 正靱 (龍谷大学)
「脱温暖化に向けた地域社会変革の課題と研究者に求められる方法論および倫理規範」
この講演では、低炭素社会への移行にとってきわめて重要となる地域社会の変革に着目しつつ、地域社会の構造論やFuture Earth 構想の背景にある協働参画型のプログラム・プロジェクトマネジメント論を紹介し、理工学系の研究開発とのアナロジーに基づき、社会技術的な課題に関わるアクションリサーチのあり方について考えることとします。さらに、JST-RISTEX (科学技術振興機構 社会技術研究開発センター)の環境エネルギー領域(2008−13年)の経験も紹介します。

13:45〜14:15
佐藤 哲 (総合地球環境学研究所)
「科学者とステークホルダーの相互作用による知の共創 - 地域環境知という考え方 -」
世界各地の地域社会におけるさまざまな環境問題の解決を目指す取り組みの現場で、科学者・専門家による科学的知識生産と、社会の多様なステークホルダーによる日常生活の中での知識生産のプロセスが相互作用し、従来の科学知・在来知という定式化にはなじまない知識体系が生産され、活用されている。科学者の好奇心ではなく、社会が直面する課題に駆動されて生産される問題解決指向の領域融合的知識体系を、「地域環境知」と呼ぶ。地域環境知は、多様なステークホルダーと科学者が地域の環境問題解決への取り組みで協働する中で、人々が生活の中で培ってきた知識と、予測性や因果関係の理解をもたらす科学知が融合してダイナミックに形成され、変化していく。私たちは、このような知識基盤に基づいて、日常のさまざまな場面から社会の長期的な課題への対応を検討するような場面まで、多様な時空間にまたがる意思決定を行い、アクションを起こしている。地域環境知を構成する知識の生産者は、職業的な科学者・専門家に留まらない。農業・漁業などの一次産業従事者、地域企業、地方自治体やさまざまな地域団体の人々も、従来の意味での在来知の範疇を超えた、科学的な基盤を取り込んだ領域融合的かつ問題解決指向の地域環境知の、重要な生産者である。このような地域環境知のダイナミックな生産と流通が、多様なステークホルダーの協働による地域レベルから地球規模にいたるマルチスケールのアクションを駆動するメカニズムを検討する。

14:15〜14:45
朝山 慎一郎 (国立環境研究所)
「科学者は政策にどこまで踏みこむべきか? - 気候変動をめぐる科学とアドボカシーの問題 -」
地球温暖化/気候変動問題において、科学と政策は不可分の関係にある。気候変動に関する政府間パネルIPCC)が気候変動の政治に大きな影響力を持つように、科学的知見は政策決定の重要な規定要因となっている。それゆえに、科学者が政策決定にどのように関与するのかは、科学と社会の双方にとっての重大な関心事である。ここでは、特に科学者によるアドボカシーをめぐる問題に焦点を当てる。アドボカシーは、自らの意見表明などによってある特定の政策を支持する行為として定義される。科学者によるアドボカシーは科学者個人だけでなく科学全般に対する社会の信頼を損なう行為として批判される一方で、気候変動のように複雑な問題では科学者がより深く政策に関与することが求められるというジレンマがある。とりわけ、多様な利害や価値観が混在し、衝突する気候変動問題では、科学は政策を正当化するための政治的なツールとして用いられ、「科学の政治化」という問題を招く。もし仮に科学者が政策に一切関与しないという選択をしても、その選択自体が政治的な意味を持ってしまう。では、科学者は一体どこまで、そしてどのように政策に踏み込むべきなのか。アドボカシーから逃れることができないのであれば、科学者によるアドボカシーはどうあるべきなのか。本発表では、科学者によるアドボカシーそれ自体をめぐる論争と同時に、気候変動における科学とアドボカシーという錯綜した関係について考察する。

14:45〜15:00 休憩

15:00〜15:30
松浦 正浩 (東京大学)
ステークホルダー合意形成における科学者・専門家の役割 -共同事実確認の概念-」
意思決定の現場では、利害や価値観が対立するステークホルダーたちが、自らの利害や価値観に適合する(科学的)情報を選択的に提示するために弁護科学(advocacy science)が生じ、利害や価値観だけでなく、「根拠(evidence)の正しさ」に関する対立への対応が必要となる事態が増えている。特に、地球環境問題の議論においては、科学的な将来予測が大きな意味を持つため、政策対応の根拠に関する合意形成が重要となる。主に米国では、環境紛争解決の実践として、ほぼ全てのステークホルダーが納得できる科学的根拠を、ステークホルダーと専門家の協働で特定する「共同事実確認」の方法論が用いられてきた。ステークホルダーに対し、その議論において根拠となりうる情報を専門家集団が提供するこの方法論は、順応的管理などの概念と統合することで、地域における環境紛争解決において有効と考えられる。しかし、地球環境問題に関する議論のように、問題の存在を社会に警鐘する役割を専門家が担わざるを得ない状況、ステークホルダー(の代表者)と専門家を明確に峻別しがたい状況、科学的知見の不確実性が極めて高い状況、そして関係する利害と価値観が多岐にわたり全地球規模での調整が必要な状況においては、共同事実確認の適用は難しいだろう。本発表ではまず、地域レベルでの環境紛争の解決を念頭に置いた共同事実確認の概念を導入した後、地球環境問題に対してその概念を拡張を試みるときに現場で生じるであろう問題について議論する。

15:30〜16:30 総合討論
司会: 宗像 慎太郎
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(企画担当理事 増田 耕一)