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DIASの制度設計失敗に関するメモ

ここでいう「DIAS第1期」は2006-2010年度に文部科学省の事業「海洋地球観測探査システム」の一部として実施された「データ統合・解析システム」、「DIAS第2期」は2011-2015年度の事業「地球観測データ統融合プログラム」をさしている。現在、DIAS第2期の活動の中で、次期(構想を練っている人たちの用語ではないがわたしは「第3期」と呼ぶ)の構想を練っている。

わたしは、DIAS第1期の中で働いていたが、第2期には参加していない。第1期は研究プロジェクトとしては成果を出した(第2期も出している)と思うが、それは少数の研究者による成功であって、おおぜいの人にとって役立つ共通基盤づくりの準備はまだできていないと思う。情報処理技術や地球科学技術のレベルではなく、制度設計に大きな未解決の問題がある。そのことは第1期の実行中に気づいたのだが(したがって第1期の制度設計がうまくなかったのはやむをえないと思うのだが)、第2期開始までに制度設計のみなおしができず第1期と似た体制で続行してしまったのは、科学技術行政的失敗だったと言ってよいと思う。それは第2期の事業を執行している人たちの失敗ではない。彼らは不適切な境界条件を与えられた中でともかく社会に役立ちそうな技術の事例を示すためになみなみならぬ労働をしているのだ。だが第3期があるならば、第1期・第2期の惰性を断ち切って制度設計を根本的に考えなおす必要があると思う。

このメモ(- - - から下)は、わたしが2013年5月に第3期構想を考えている人たち(の一部)あてに議論材料として書いたものである。少しことばを補った ([...]の形で追加を明示したところもあるが、とくにことわらずに書きかえたところもある)。残念ながらわたしの実力不足のために議論にあまり影響を与えることができていないが、恥をしのんで世に出すことにする。

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1. 第1期開始の際に多くの関係者がこの事業に参加すれば将来自分たちの「データセンター」ができると期待していた。今になって考えると、その期待には、「データ統合解析システム」[プロジェクト名でなく文字どおり多種類のデータをいっしょにして解析する場をさす]と、貴重な(巨大でない)データの長期保存のためのアーカイブとが含まれていた。DIASは時限の、しかも研究成果の見込みによって課題選別が行なわれるプロジェクトだったので、長期保存につながらないことは、あとで考えれば明らかだったが、研究者の労力をDIASに向けてしまった結果、アーカイブへの努力がそがれてしまった。

2. DIASコアシステム[大量・多様なデータを収録する計算機システム]には、システム管理およびユーザーサポートの専任者がつかず、研究者が管理する体制となった。このため、コアシステムにログインできる人数が限られ、コアシステム上で動くソフトウェアが少数しか開発されなかった。コアシステム自体が新規性のある計算機だったのでやむをえなかったかもしれないが、それならば別に応用開発者が使える安定した計算機資源を確保するべきだった。

3. 当初、サービス形態としては、データそのもののダウンロードではなく、高度な情報がウェブ越しに提供されることが想定された。(のちに、ウェブでの選択に基づくダウンロード機能が追加された。) コアシステムにログインして利用するのは少数のアプリケーション開発者と想定された。しかし、現実にはコアシステムで動作するウェブアプリケーションを開発できる人は限られているので、ウェブ越しで使えるサービスは少ししか開発されなかった。コアシステムを科学に活用するためには、ログインユーザーをふやす必要があり、したがって専任のユーザーサポートを置く必要があることが、苦い経験の結果わかった。

4. 気候モデル出力データを収録したにもかかわらず、それは高次プロダクトを作るための材料として位置づけられていたので、DIASサーバーからモデル出力データ自体を発信することは[DIAS第1期の当初は]想定されていなかった。気候モデル関係者も、当初は、[多数の気候モデルのデータを共同利用する世話役はアメリカの機関が担当していたので]単にアメリカに送ればよい[=世界への提供の責任は果たせる]と考えていた。ところがアメリカから日本に分散型アーカイブへの応分の負担を求められた。ここですぐ対応していれば、分散型アーカイブの中で独自の特徴を出せたかもしれない。現実には、革新プログラム[=21世紀気候変動予測革新プログラム、2007-2011年度]関係者が別にアーカイブの予算を要求しようとし(DIAS第2期の計画がまだ白紙でIPCCが期待する時期に[DIASサーバーの]運用が続く保証がなかったため)、文部科学省の方針によりDIASでやることになったというまわり道で、時間を損した。結局、DIAS第1期の最後から第2期の最初の時期にかけて、東大教員が、アメリカ側[Department of Energy傘下の研究所群]で決められた仕様のESG [=Earth System Grid]ソフトウェアのインストールと運用に動員され、オリジナルな研究をする時間を奪われた。しかも、ダウンロード利用者が意識する入り口はアメリカのサーバーであり、DIASサーバーは働いているのに[世界から見るとその貢献は]陰に隠れてしまった。

5. DIAS第1期でJAMSTECが担当した実用化技術開発の活動は第2期に引き継がれず、第1期で作られたシステムは暫定的にそのまま運用を続けていたが、それも困難になってしまった。ここでもまた、プロジェクトが終わればチームが解散し、ノウハウは散逸していく。