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「知的財産推進計画2013」および「知的財産政策ビジョン」の策定に向けた意見

2013年3月22日しめきりで、国の「知的財産推進計画2013」および「知的財産政策ビジョン」の策定に向けた意見募集があったので、次のような意見を書き送りました。(読書ノートへのリンクはこのブログ記事で追加したものです。) なお、意見募集のページは消されてしまいましたが、同じ3月22日に出された別の記事 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/seisakuvision/dai3/kaisai.html で3月29日に会議を開くことが予告されている「知的財産政策ビジョン検討ワーキンググループ」に関係するものと思われます。

[意見の要旨]
知的財産政策には、私有財産となる知的財産の形成への支援だけでなく、知的公共財あるいは公有知的財産の整備が必要です。これには、知的私有財産の権利が切れたもののほかに、地球環境観測データや社会統計データが含まれます。国内・国際にわたり、複数のデータを統合して利用できるように公共部門からのデータ提供体制を整備すべきだと考えます。

[意見]
「知的財産推進計画2013」「知的財産政策ビジョン」の両方の全体的視点にかかわる意見です。

知的財産には、私有財産となるものだけでなく、公共財となるもの、あるいは、公的部門が保有して広く使われるようにすべきものもあります。しかし、現状の「知的財産推進計画2013」の話題は私的財産に集中しすぎています。知的公共財あるいは公有知的財産の整備には、民間の知的私有財産形成への支援にまして、国の積極的な政策が必要です。記述の分量はともかく、論理的な柱としては、知的私有財産の形成に劣らぬ重要性をもって述べていただきたいと思います。

知的私有財産は、孤立して生産されるわけではなく、他の知的財産の肩に乗って育ちます。それを支えるもののうちには、知的公共財の役割が重要です。

知的公共財には次のようなものがあると考えられます。
(1) 著作権などの知的財産権の期限が切れたもの。民謡やよみ人知らずの詩歌など、長い文化伝統に属するものもこれに含めてよいでしょう。
(2) 地球環境観測で得られたデータは、基本的には自然の産物であり、それを観測して記載した人間の組織はいわば二次著作者と考えられます。また地球環境観測事業の多くは公共部門によって行なわれるので、その成果は、広い意味の知的公共財とするのが順当と考えられます。法律的な意味で、アメリカ合衆国連邦政府の場合にならって公共財とするか、国が財産権を主張したうえでライセンスを整えるかは、日本国としての政策判断ですが、ライセンスは複数のデータを組みあわせて使うことをさまたげないものであるべきです。また、できる限り、利用者の国籍による制限は避けるべきです。外国が持つ地球環境観測データの公開を求めたいので、相互主義的な必要があります。地球観測データの国際的共有に関しては、ICSU (国際科学会議)のもとでWorld Data System (www.icsu-wds.org) というしくみが整備されつつあり、日本の情報通信研究機構がその国際プログラムオフィスを引き受けていますので、そこを核として府省横断的な支援体制を整えるのが望ましいと思います。
(3) 行政が得た社会データのうちには、公開不可の個人情報もありますが、国勢調査、農業センサスをはじめとする統計データについては、環境・天然資源の課題解決のために(2)のデータといっしょに使う需要もありますので、知的公共財あるいは国が広くライセンスする知的財産とするのが適切と考えます。

参考文献(一例)

  • Renee MARLIN-BENNETT, 2004: Knowledge Power: Intellectual Property, Information & Privacy. Boulder CO USA: Lynne Rienner. [読書ノート]