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円グラフの条件つき復権、つづき

[8月12日の記事]の続き。

奥村さんからTwitterでコメントをいただいた。わたしのことばで書きとめておく。

  • 円グラフよりも適切な表現があることが多い。比較には積み重ね棒グラフがよい。
  • 論文に使われた円グラフは情報の割に場所をとりすぎていることが多い。
  • 場所を節約しようとして、円をつぶした楕円などにしたグラフ(いわゆる3D円グラフを含む)が使われるようだ。これはまずい(数値を正しく伝えることができない)。

そこで、わたしが円グラフを使ってもよいと思った条件を考えなおしてみた。

円グラフで複数の成分の割合を伝えようととすると、円をかなり大きくかかなければならない。そして、そのような場合は円グラフが最適な表現でないことが多いのだ。

全体の中の1つの成分の割合を示す円グラフならば、かなり小さくかいても読みとることができる。わたしが円グラフを使ったほうがよいと思ったのは、このような小さな円グラフをたくさんならべる場合なのだ。

8月12日の記事でも参照したCleveland (1985)の本の読書ノートの補足に、地理的データの表示の例がある。地図を濃淡で塗り分けるのは、面積あたりでない量については不適切だ。そこで、Clevelandさんが勧める方法は、一定の長さの棒のうちの長さの割合で表現する方法だ。図の例は引用していないが、アメリカ合衆国の地図の各州に、メスシリンダーを立てて(ただし3次元の円筒の絵ではなくて断面の長方形)、その中に黒い液体がはいっていてその水位が数量をあらわすようなものだ。

数量が何かの「全体に対する割合」である場合に限るのだが、棒を配置して長さの割合で数量を表現するよりも、円を配置して扇形の中心角の割合(面積の割合でもあるが)で表現したほうが、読みやすいとわたしは思う。ひとつには、棒を縦に置くと、地図の南北方向と東西方向の距離感が変わってしまうのだが、円だとそれが少なくてすむ。また、地図上の小さな棒の中の割合を視覚的に区別するのは4段階くらいしかできないが、円グラフの中心角ならば8段階または12段階を区別できる人が多いと思う。

ただし、Clevelandさんがいうように「知覚」(perception)と「認識」(cognition)を区別してみると、円グラフの角度の読み取りは単なる知覚ではないかもしれない。角度が数量を表わす文化を経験しているうちに訓練されるものだと思うのだ。しかし、言語あるいは幾何学的概念を介する認識ではなく直観的なものなので、知覚と認識の中間になるのかもしれない。

アナログ時計を見慣れている人ならば、円グラフの扇形を、長針が上を向いている毎正時の時計の針の形だと考えれば、12とおりの図形を区別することができる人が多いと思う。

わたしは時計の針の読み取りはあまり得意ではない。子どものころから家にディジタル時計があったせいだ。1960年代なかばのことで、電気モーターで1分にひとつ数字を書いた板が落ちるしかけのものだったが。わたしの角度から情報を読み取る訓練は地図上の方位についてのものだ。天気図の風向の矢羽ならば16方位を区別できるが、円グラフでは8方位ならば確実に区別できるが16方位は不確実だ。

小さな円グラフがたくさんのった地図を見て数値を読み取るしくみを、自分の反省から推測してみる(認知心理学的に正しいかどうかはわからない)。

  1. 大まかな知覚によって円の存在を認知する。
  2. 大まかな知覚によって円のうち色の違う部分の大まかな面積比を認知する。
  3. 扇形という形を認知する。
  4. 中心角を読み取る。
    • もしその種類の円グラフを読み慣れていれば、知っているパタンにあてはめて(文字を判別するのと同じ種類の認知で)、中心角を知る。
    • 読み慣れていなければ、意識的に中心角を認識する。

円が縦横比の違う楕円などになっていると、2と4で読み取られた情報がくいちがうので、数量の伝達のためにはまずいグラフになる。