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地学の教科書がなくなる?

来年度の高校の「地学」の文部科学省検定済み教科書が出ない見通しなのだそうだ。

このことは文部科学省から5月31日に次のように発表されていたのだが、

新しい高等学校学習指導要領における理科「地学」,家庭「生活デザイン」の指導について (事務連絡, 平成24年5月31日)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/1323710.htm

わたしが気がついたのは、Twitter文部科学省(mextjapan)からの7月25日の発言を見てだった。その発言からリンクされているウェブ記事は次のもので、日付がないのだが7月に新しく作られたものらしく、そこから5月31日の記事へのリンクもある。

高等学校理科の「地学」と「地学Ⅰ」「地学Ⅱ」の学習内容の対応について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/1323709.htm

「地学」と「地学Ⅰ」「地学Ⅱ」との対応関係 (PDF:123KB)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/07/24/1323712_1.pdf

まぎらわしいのだが、「地学基礎」という科目は今年度にすでに始まっており、その教科書は出ている。新学習指導要領にはさらに時間をかけて地学の分野を勉強するための科目があるのだが、その教科書を用意する出版社がなかったということだ。

高校理科のカリキュラムは、物理・化学・生物・地学のそれぞれの教育内容をしっかり教えたい人と、高校生みんなに共通の理科を教えたい人のせめぎあいで、指導要領改訂のたびに変わるのでわかりにくい。とくに地学は、もともと少数であるうえに、地学の専門家自身も地学さえ教えれば物理・化学・生物は教えなくてもよいなどとは主張しないので、ますます競争で負ける傾向にあるようだ。

今度、教科書が出ないという話も、地学分野がますます軽視されている状況のあらわれのようで、さびしい。災害や環境問題の面からは、地学にあたる内容がもっと多くの人に知られるべきだという機運もあることはあると思うのだが。

検定ずみ教科書なしにそれぞれの学校が自由に教えられるのは、むしろ喜ばしいことではないか、という考えもある。Twitterでも見た。わたし自身、そう思う面もある。もし、著者が学問の理屈の構成上必要だと思っても、役所が指導要領の範囲外だと考えれば削るような検定がされるのならば、そういう教科書を使うよりも、著者の考えを通した教材を使ったほうがよい教育ができるかもしれない。

大学の入学試験の問題を作る側からは、出題範囲を判断する材料として、指導要領だけではむずかしく、教科書を見たい、ということはある。ただし「地学基礎」ではない「地学」の試験をするところは少ないだろうし、その出題傾向が大学ごとにまちまちであってもいけないとは言われないだろうと思う。

ただし、失礼な言いかたをして申しわけないが、教育内容を現場のそれぞれの先生にまかせると、ときに、(現代の科学の知見として)まちがった内容を正しいものとして教えてしまうことがある。とくに、健康や環境問題に関心をもって行動している人々のグループが共有する信念のうちには、残念ながら学校教育で科学的知識として教えてはまずいものもある。そういう例がネット上で話題になっているのを見ると、検定ずみ教科書に基づいて教えろという統制は、残念ながら必要なのかもしれないと思うこともある。

また、学問の進展によって、前は科学的知見として正しいと思われていたことが正しくないことがわかったとか、適切な表現が変わったとかいうことがある。検定は、保守的になることもありうるのだが、定期的に見なおしを強制することのよい面もあると思う。

文部科学省は今回の追加記事で、現行の「地学I・II」の教科書を使ってもよいと言っている。この表現は、使ってもよいという形式だが、実質「使え」という命令なのかもしれない。もしそのような暗黙な強制があるのならば、それには反対する。現場が新しい材料を使いたい場合はそれも認めるべきだ。参考として使うことにはもちろん反対しない。

対応関係が示されているのはありがたい。しかし、わたしは自分が持ち場として一種の責任を感じている気象関係のところだけ確認したのだが、この部分の対応関係は、残念ながら「まちがっている」と言ってよいと思う。

新「地学」の「(3)地球の大気と海洋」の「ア、大気の構造と運動」の下の「(ア)大気の構造」と「(イ)大気の運動と気象」の2つからは一括されて赤の破線がのびているが、その先は旧「地学II」の「(2)地球表層の探究」の「ア、地球の観測」の「(イ)気象と海洋の観測」だけになっている。このほかに、旧「地学I」の「(2)大気・海洋と宇宙の構成」の「ア、大気と海洋」の「(ア)大気の熱収支と大気の運動」と、旧「地学II」の「(2)地球表層の探究」の「イ、大気と海洋の現象」の「(ア)気象と気候」にも関連する内容があるはずだ。

ここに追加で述べた対応がもし意識的に省略されたとすれば、これらの旧「地学I・II」の項目の気象学的内容は「地学基礎」でカバーされているので「地学」のほうではふれる必要がない、という理由しか考えられないが、この想定はちょっと無理があると思う。