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「科学技術重要施策アクションプラン」の「グリーンイノベーション」に関する意見

国の総合科学技術会議 http://www8.cao.ac.jp/cstp/ が、「平成25年度科学技術重要施策アクションプラン」について、意見募集をしている(6月8日(金)まで https://form.cao.go.jp/cstp/opinion-0024.html )。【[2012-06-08補足] わたしは6月5日に意見を書いた。意見と理由それぞれ200字以内程度という(字数制限は厳密ではないが)制約があったのであまり詳しく書けなかったが、この下に述べる地球観測関係の件の要点を書いた。】

このアクションプランは科学技術基本計画に基づく政策の設計のはずなのだ。ただし、第4次科学技術基本計画は2011年夏に決まったのに対して、アクションプラン(http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/action.html )は2011年度予算に対応するものから始まっている。2010年夏に、まだ確定していない基本計画のキーワードを先取りして作られたのだ。「重点対象」はそのときからの「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」に加えて、2012年度から「復興・再生並びに災害からの安全性向上」と「基礎研究及び人材育成」が加えられた。

わたしは「グリーンイノベーション」について見ていく。【[2012-06-08補足] 意見募集の文書に2013年度版についての具体的検討内容は見あたらないので、2012年度版を基本として修正を加えるつもりなのだろうと仮定して意見を述べる。】

2011年度版では、「ポイント」の表の形に示された中の「将来像」として「地球的規模の課題である気候変動問題を克服し、世界に先駆けた環境先進国日本」と書いてある。本文には「持続可能な低炭素・自然共生・循環型社会」という表現もあるのだが、環境問題のうちで気候変動をあまりに強調しすぎではないだろうか。

これに対応するものは、2012年度版では「目指すべき社会の姿」として「自然と共生し持続可能な環境・エネルギー先進国」となっている。詳しい意味が不明だが、偏りは是正された気がする。

しかし、次のレベルを見ると、

2011年度「課題」

  • 再生可能エネルギーへの転換
  • エネルギー供給、利用の低炭素化
  • エネルギー利用の省エネ化
  • 社会インフラのグリーン化

2012年度「政策課題」と「重点的取組」

  • クリーンエネルギー供給の安定確保
  • 分散エネルギーシステムの拡充
    • 革新的なエネルギー創出・蓄積技術の研究開発
    • エネルギーマネジメントのスマート化
  • エネルギー利用の革新
    • 技術革新による消費エネルギーの飛躍的削減
  • 社会インフラのグリーン化
    • 地域特性に応じた自然共生型のまちづくり

のようになっている。つまり、4つの柱のうち3つまでが、エネルギー消費に伴う二酸化炭素排出が少なくなることをめざした再生可能エネルギーおよびエネルギー資源節約の技術開発であることは変わらない。(原子力発電が、2011年度の文書では「低炭素化」の下の「方策」のひとつにあげられていたのだが、その下の「施策パッケージ」が作られないまま、2012年度の文書から消えた、という変化はある。)

生物多様性や物質循環など、気候以外の環境問題に関するキーワードは「社会インフラのグリーン化」の中に断片的に出てくる。「グリーン化」というのも意味不明だ。好意的に考えれば、国の予算編成の原則が、「選択と集中」で、重点とされた課題にはまとまった予算をつけるが、その他の支出は一律削減の対象(ここでは「軽点」と呼ぼう)とするというやりかたになってしまった中で、社会を持続可能にしていくための環境科学技術は、特定の種類のものだけやればほかは「軽点化」してよいというものではないので、便法として玉虫色の箱を用意したのかもしれない。【[2012-06-08補足] それにしても、たとえば「生物多様性」に関連してはおそらく「さとやま保全」のようなものが想定されていると思うのだが、それを「まちづくり」に入れることはできるとしても、それを「社会インフラ」に入れるのは用語の意味の拡張しすぎだろうと思う。】

環境に関していくつかの「政策課題」をたてるべきなのだと思う。炭素以外の物質の循環や、生態系サービスに関するものが考えられる。しかし、今からでは2013年度予算の概算要求に間に合わせるのはむずかしそうだ。2014年度のアクションプラン策定に向けて、中身のある主張をしていこうと思う。

それにしても2012年度版のこの部分は、「まちづくり」という「重点的取組」の中に地球観測まで含めてしまっているのでとてもわかりにくい。確かに地球観測の中には自分の住むまちの観測も含まれるし、日本でまちづくりに関する知識が発達すればそれは日本で使われるだけでなく外国でも使われる(そういう知識を発達させるべきである)ので、日本以外の世界の観測も関係あることはある。しかし、重点として示すにしてはつながりが細い。

地球観測が行なわれることと、そのデータを統合的に利用できる場があることは、確かに社会のインフラストラクチャーであり、それを整備することは、国の予算配分の重点とするべきだと思う。そしてそれは、2012年度版であげられた重点的取組「地域特性に応じた自然共生型のまちづくり」だけでなく「再生可能エネルギーの飛躍的拡大」「エネルギーマネジメントのスマート化」「消費エネルギーの飛躍的削減」などが実用に向かっていく際には貢献する(べき)ものだ。再生可能エネルギーである太陽光・風力・海流などの供給を拡大するためには、その資源量を空間分布や時間的変動を含めて知ることが重要だ。エネルギー利用過程のむだをなくすことやエネルギー消費を減らすことのためには、人や設備のまわりの環境の状態、すぐ思いつくところでは温度(気温・水温・地温)・湿度・日射量など、を、やはり時空間分布を含めてなるべく正確につかむことが有効なはずだ。その情報は地球環境情報と重なる。(ただし料理のしかたは違うかもしれない。つまり情報を応用する立場での技術開発という課題がある。) したがって、地球観測とそのデータの統合利用を「重点的取組」としてあげ、これはグリーンイノベーションの4つの「政策課題」に貢献するとするのがよいと思う。

地球環境データ統合技術を発展させるべき方向は複数ある。巨大データ、リアルタイム実験、長期継続があげられると思う。とくに気候情報については長期継続が重要だ。データの対象期間を長くするとともに、利用経験を蓄積することだ。

2010年度まで実施された「データ統合・解析システム」(DIAS, http://www.editoria.u-tokyo.ac.jp/dias/ )という事業では、この方向が未分化だったが、とくに巨大データを扱うことが重視された。巨大データを扱うサーバーを開発した研究者自身が管理し、利用者支援の専任者を確保しなかったのは失敗だったと思う。ただし、新奇性の高いサーバーについて利用者支援体制を作るのは無理かもしれず、それならば複数のサーバーに分けてそれぞれに運営体制を組まなければならないと思う。とくに、長期継続するデータを集める仕事は、プロジェクト終了後に運用が継続されるように、それをだれが引き受けられるかも考えて計画するべきだ。この点で、情報通信研究機構(NICT)が国際科学会議(ICSU)のもとの世界データシステム(WDS)の国際プログラムオフィスを引き受けたことが注目される(WDS http://www.icsu-wds.org/NICT統合データシステム研究開発室 http://www2.nict.go.jp/isd/ISDS-contents/index.html )。これまでは電離層のデータセンターではあっても気候を専門分野としていない(雨の観測技術の研究はしているが) NICTが気候データの長期的センターとしてふさわしいかどうかはわからないが、NICTにも参画してもらって将来の運営体制を考えるべきだと思う。

また、DIASで運用経験を持った人の多くがプロジェクト終了でその場を離れ、その内には職を失った人たちもいる。研究プロジェクトの成果は論文その他の文書になるもの、機械などの物体に組みこまれるもののほかに、人の技能(暗黙知)となるものもあるのだ。国の支出をうまく使うということは、技能を身につけた人をうまく使うことが含まれるはずだ。多分野の人々のデータ利用を支援する専門職の職業キャリアを確立していく必要がある。(図書館司書、博物館学芸員と共通性があると思う。 )