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太陽定数

太陽定数」(英語ではsolar constant)とよばれる数量は定数ではないので、この用語は不適切だ。しかし、これまでに書かれた文献を読むためにはこの用語を知っておく必要がある。また、英語ではTSI (total solar irradiance)への置きかえが進んでいるようだが、日本語ではまだこれにあたる用語が定まっていない。

「太陽定数」と呼ばれてきた量は、太陽から出る(可視光線を含む全波長域の)電磁波の、太陽・地球間の平均距離にあって太陽と地球を結ぶ直線に垂直な平面に達するエネルギーフラックス密度(単位面積・単位時間あたりのエネルギー、[別記事参照])だ。これは原理的に変動しうる量なのだが、地上から大気を通しての観測しかできなかった間、実際に変動しているかどうかよくわからなかった。1978年からは人工衛星によって連続した観測があり、約11年周期で、10進法で4桁めの数値が変動していることがわかっている(SORCEという新しい観測システムを信頼するとすれば1361±1 W/m2[教材ページ参照])。他方、太陽物理の理論のほうから、この量は、地球ができたころは今の0.7倍くらいであり、しだいに増加していると考えられている。10年よりも長くて10億年よりも短い時間スケールの変動は実態も原理もまだ確実に知られておらず、太陽物理の研究課題だ。気象学のうちにはもちろんこの量の変動に注目した研究もあるにはあるが、大部分の研究ではこれは変動しない量とみなされている。したがって「定数」という表現は正確ではないが大きなまちがいでもない。

英語のtotal solar irradianceを日本語に直訳すれば「全太陽放射照度」となるだろうが、意味を考えると「全波長太陽放射照度」とするべきだろう(しかし長くなる) [この部分 2021-01-18 改訂]。太陽表面を出る(単位面積あたり・単位時間あたりの)放射エネルギーならば放射輝度(radiance)だが、この場合は、ある平面に届く放射エネルギーだから、照度なのだ。ただし、この用語は、「太陽定数」の場合と違って、違った位置や違った向きの面にあたる放射をさす場合にも使われる可能性があるので、確実に意味を伝えたいときには「太陽・地球間の平均距離にあって太陽と地球を結ぶ直線に垂直な平面」であることをことわる必要があると思う。なおtotal (全)は、波長帯別のエネルギーを論じる(SORCEチームやそのほかの)人たちが、全波長帯合計であることを示すためにつけたことばにちがいない。Totalという表現からはわたしはむしろ太陽からあらゆる方向に出る放射の合計という意味だと思う。それ自体ではなく太陽地球間の距離を半径とする球面の面積あたりにしたものをtotalというのはわかりにくい。