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国費科学研究の体制はリサーチカウンシル方式で

科学研究関係の独立行政法人を再編成するという閣議決定がされたが([1月20日の記事参照])、具体的な形はあとで考えるということのようだ。性格の違う職場をむりやり同一基準で運営させられたら現場が困る。かと言って、名目だけ統合して中は今までどおりでは名前を変えるための費用がかかるだけで国民にとって損だ。

科学研究関係の独立行政法人には、大きく分けて、実際の研究に従事するもの(研究機関)と、他の法人に対して研究資金を提供することをおもな業務とするもの(研究資金提供機関)がある。(両方にまたがって、研究の方針を考える業務、研究の基盤となる情報を提供する業務、研究者とその外の世界との間のコミュニケーションをする業務などもある。)

国が科学研究を進める体制としては、今後も、この両方が必要だと思う。

国の研究費の多くの部分は公募型になっている。研究資金提供機関が期間と大まかな目標を設定して、具体的な研究計画の提案を募集し、それを審査して合格したところに実行予算を分配する形だ。これによって、具体的な計画まで中央でやる場合に比べてずっと多様な知恵を集めることができるし、研究者のやる気も引き出せる。しかし、国にとって常に必要な研究までみんな期限つきとし研究計画を競争させる形にしてしまうと、研究者はみんな職の先行きが不安になり、落ち着いて仕事ができなくなる。研究能力をもつ人材を確保するためには、全員は無理だとしても、かなり多くの部分について、雇用と、いくらかの研究費とを継続する必要がある。大学教員も教育とともに研究を期待されているが、そのほかに研究をおもな職務とする人が働く職場(研究機関)もあるべきだろう。

研究資金提供機関と研究機関は、どちらも国の科学研究の方針の実現に貢献することを期待されるものなので、両者を統合するべきだと考えるのももっともだが、1月14日の記事でも述べたように、公募研究を募集する側と応募する側の(全部ではなく)一部とが同じ法人内になる場合には、審査の公平性を確保するためのくふうが必要だ。いわば、研究資金提供機関と研究機関とは、同じ「親会社」のもとにあっても別の「子会社」であるような距離が必要ではないだろうか。

このような体制の参考になるのはイギリスのResearch Council(s) http://www.rcuk.ac.uk だと思う。全部で7つのCouncilがある。そのうちの別格として大型研究施設を監督するCouncilがあるが、そのほかは学問分野別に作られていて、その分野の大学などの研究者への研究資金提供をするとともに、直轄の研究所ももっている。

【なお、アメリカ合衆国のNational Research Councilは科学アカデミー関連の、科学者から政府への助言などのための会議(たくさんの専門委員会を含む)を運営する組織であり、ここでいうイギリス流の意味でのResearch Councilではない。】

日本でこれに近い体制は、農林水産省がとっている。農林水産技術会議 (http://www.s.affrc.go.jp/ 英語名 Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council)という組織がある。これは農水省という官庁自体の一部らしい。ここが、農水省としての研究基本計画をたて、公募型の研究資金を提供し、また独立行政法人となっている研究所を監督している(森林関係・水産関係は林野庁水産庁との関係もあって複雑だが)。

【たとえば農業環境技術研究所(農環研)は独立行政法人だが、そのインターネットドメイン名は niaes.affrc.go.jp となっている。これは、農環研がまだ官庁組織だったころのなごりかもしれないし、インターネット接続が楽でなかったころに複数の研究所をまとめてめんどうをみたなごりかもしれない。しかし、実態としても、農環研は別法人である今も農林水産技術会議の「傘下にある」といってよいのではないだろうか。】

ほんとうに独立行政法人の名にふさわしい体制をつくりたいのであれば、その業務内容本位で、監督する省の境を越えた統合を考えたほうがよい。[2012-02-09補足: たとえば文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)と経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とを統合すべきだという考えは、ある面から見ればもっともだ。]

しかし他方、各省はそれぞれ科学技術研究の基本方針をもつべきだ。そして現状で独立行政法人と呼ばれるものの大部分が各省のいわば「子会社」であることはいなめないし、むしろその従属性を公認して体制を整えたほうがよいのかもしれない。つまり、各省がそれぞれ研究会議(Research Council)をもち、その代表が、総合科学技術会議を改組する形で計画されている「科学技術イノベーション戦略本部」に集まって国全体としての調整をするような形だ。研究会議の中枢機能は各省自体がもつ必要があるかもしれない。その下の企画立案機能や研究資金分配機能を自まえでもつか子会社的な行政法人に委任するかは各省にまかせてよいのではないだろうか。

文部科学省について言えば、親会社の役割をする(たとえば)「科学研究会議」が構成され、その子会社として、理化学研究所などの複数の研究機関と、科学技術振興機構(JST)と学術振興会(学振)とから機能を引き継いだ研究資金提供機関とがならんでいる形が考えられると思う。[2012-02-09補足: 各子会社の経営は、研究会議のコントロール下に置かれ、研究会議が許す範囲内の自主性をもつことになる。この程度の統合では、国の支出の節約はあまり期待できないが、研究会議がしっかりした研究政策を組み立てることができるのならば、行政体制の改善になるだろう。]