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研究を任務とする独立行政法人の統合と、任期つき労働者の立場

独立行政法人のうちでも科学研究をおもな職務とするところで働く人にとって、法人の統合は、たいていの場合、迷惑なことだ。もし、国になんらかの科学研究を推進したいという意図が先にあってその手段として法人統合が考えられたのならば、研究労働者としてもその意図に賛同できる場合は喜んで統合のために働くこともありうる。しかし、研究の内容に関する方針は変えず、組織だけを変えるのならば、労働者にとっては、いろいろな書類を書きかえたり、ものを買ったり出張したりするための手続きを覚えなおしたり、へたをすると組織の見かけをわかりやすくするだけの目的で引っ越しをさせられたりして、研究業務に使えるはずの時間を奪われながら、その時間が奪われなかったのと同じだけの研究成果を要求されるにちがいないので、まったくうれしくない。

さらに、国から独立行政法人に交付される運営費は毎年少しずつ削られるルールになっていて、研究を職務とする法人も例外ではない。とくに人件費の部分についてはそのルールがきびしい。公務員の場合のように人数の定員があるわけではないが、事実上、定員削減が続いているような状況だ。しかし、国の科学研究予算は、国の予算全体のうちではめぐまれていて、少しずつながらふえている。ふえたぶんは時限つきのプロジェクトだ。このような状況で、研究を職務とする法人では、研究者だけでなく、事務や技術を担当する職員も、(自分から退職をすることも懲戒されることもなければ)定年まで勤め続けるようないわゆる終身雇用の人数よりも、任期つき雇用の人数のほうが多くなっている。国の科学研究予算がふくらんだ1990年代以後にできた部署では全員が任期つきというところも珍しくない。

任期はいろいろありうるが3年から5年のことが多い。法人内で運営費と明確に分けられたプロジェクト予算での雇用の場合はプロジェクトが終わるまでとなり更新のあてはない。運営費雇いの場合に任期の更新を認めるかどうかのルールは法人ごとに決めるのでまちまちだが、たとえば、同格での更新は認めず昇格は認めるというルールならば、昇格に値する業績をあげていなければクビということになる。

法人によっては、任期5年の雇用の場合には5年にわたる雇用契約書を一度にとりかわすところもあるかもしれない。しかし、わたしの経験したところでは、任期つき雇用の雇用契約は単年度である。法的には、年度初めの4月1日からにせよ、途中からにせよ、3月31日までの約束があるだけで、その先は未定なのだ。ただし「5年まで更新可能」のような条項がついていることがあるが、これは労働者の権利であるようには読めない。労使両者が合意すれば、ということなのだと思う。現実には、雇用主はよほどのことがなければ約束の任期までは更新するだろうという信頼がある。「よほどのこと」のひとつは労働者の勤務評定が「不可」だった場合だ。もうひとつ、国から法人に交付される予算が大幅に削られる場合も含まれるのだろうと思う。

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法人の統合の動機が法人の中から職務をよりよく果たすために起こったものならば別なのだが、今回のように、国(行政府または立法府)の側から強制されたものであり、しかも、国の支出を減らしたいという思わくが背景にある場合は、法人の経営陣は労働者との信頼関係をまもるのがむずかしいだろう。「よほどのこと」が起きるのだ。労働者は任期の途中でも年度末で雇用が打ち切られることを警戒しなければならない。

こういうとき、労働者は労働組合のもとに団結するべきなのだろう。独立行政法人のうちでも1960年代ごろ以前からあった役所の伝統をひくところでは組合があるかもしれない。そういうところでさえ、1970年代ごろの政党支持やイデオロギーによる対立で加入率を減らしてしまったところが多いと思う。新しい法人の場合は組合が作られるきっかけがないまま来てしまった。雇用者側の組織がたびたび改組される状況で、企業別組合を作ってもあまり役にたちそうもないが、研究開発独立行政法人の産業別組合ならば意味があるのかもしれない。

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また、雇用数が減らされないとしても、統合に伴う問題はいくつかある。

雇用のルールは、法人によって少しずつ違うが、法人が統合されればルールを統一しようということになるだろう。ところがルールが変更されると職員ひとりひとりの将来計画のあてがはずれてしまうことがある。

また、ルールが変わらないとしても、統合前ならば別の法人だった職場が統合後は同一法人内になることがある。これは労働者にとってよい場合も悪い場合もある。任期更新のルールが労働者にとってきびしく作られていた場合、統合前ならば、更新が認められなくても別の法人の新規採用という進路があった。法人を統合して任期更新のルールを変えないと、このような人の行き場をなくしてしまうことになる。

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ついでながら、このような職場で実質的に働いている人のうちには職員のほかに派遣労働者がいる。派遣の継続年数には限りがある。これは直接雇用に切りかえるほうが望ましいとされているからであり、実際に(選考を経て)職員として採用される場合もあるが、役務費を人件費に変更するのがむずかしいなどの理由で職員をふやせない場合が多い。せっかく研究支援の仕事能力を身につけた人が職場を去ることになる。同類の職場にしてみれば、そういう人を派遣してもらえるとありがたい。派遣を受ける側が別々の法人ならばこれは問題ないが、法人が統合されるとできなくなってしまうのではないか?