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地球温暖化に農作物をどう適応させるか

地球温暖化は、ある程度は、避けられなくなってきた。ただし、その数量となると、グローバルな予測もむずかしい。まして、各地域のローカルな気候変化の予測は、残念ながら、あまり詳しくはできないのだろう。(感覚的にはわかりにくいことだが、理論から出発する気候の予測は、グローバルよりもローカルのほうがむずかしいのだ。)

温暖化が進むと地球の食料生産がどうなるかいろいろな研究がされているが、将来をぴたりと予測してそれに対して適応するという形にはできそうもない。しかし、地球温暖化に伴ってどんな変化が起こりそうかの大局的傾向はわりあい確かに予想できると思う。したがって、そのような気候変化が生じたときに、今ある作物品種よりもよく適応できる作物品種を育てることにとりかかるべきだと思う。おそらくすでに育種の専門家が考えておられるだろうと思うが、気候のほうを専門とするわたしがその方面の一般的知識をもとに思いあたることを書き出してみる。

  • 雪国では、温暖化で雪が雨に変わり、冬の降水は冬のうちに流出する。雪どけ水に頼って初夏に田植えをする形が続けられなくなる。その代わり、冬のうちから農作物がつくれるようになるだろう。新たな気候・水条件の季節配分に適した作物を選ぶ必要がある。
  • 世界の小麦地帯・牧草地帯では、温度が上がって蒸発がふえ、降水はふえず、土壌の乾燥が進むところが多いだろう。砂漠になってしまうような極端な変化でなければ、一時的高温・乾燥状態への耐久力のある品種でカバーできそうだ。大気中CO2濃度が高い状況は葉の気孔の開きを少なくしてよいという形で生かせる。(次の世代にCO2濃度を減らすことに成功したら、また品種改良が必要になるが....)
  • アジアの米の主要産地は大河川のデルタで、海面上昇の影響を受ける。水没してしまうほどの極端な変化でなければ、地下水塩水化に耐える品種でカバーできるかもしれない。
  • 北日本では気温が上がると米作可能なところが広がると予想されるが、日射量は変わらないことが制約になり、それに適応した品種が必要になりそうだ。
  • 南日本では気温が上がると今の品種のままでは米の収量は下がってしまう。今より高い気温に適応できる品種は熱帯をさがせばあると思うが、味などの点で日本人の期待に合う品種が必要だと思う。
  • 世界全体として小麦が米よりも先に不足するのではないかと思う。日本人のパン・麺の需要を米でまかなうことを想定してそれに適した品種を開発するべきだと思う。日本の米の品種はいまコシヒカリをはじめとするタンパク量の少ないものばかりが好まれる傾向にあるが、パン・麺用にはタンパク量が多いものが必要だろう。ただし味の面で嫌われないものがほしい。
  • 畜産は飼料の段階での農業用水の消費が大きく、(飼料生産地の)水循環の変化に適応困難だ。植物性でタンパク質を中心とする栄養価が高く、肉食をしなくても多くの人が満足できるような食材を開発するべきだと思う。(豆腐をはじめとする大豆製品ばかりでは飽きる人も多いだろう。農業の多様性の面でも大豆単作ばかりを広げるのは望ましくないと思う。)