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原発震災後、世界の人間社会がせまられる選択

東京電力福島第一原子力発電所の事故はまだおさまっておらず、その影響が世界の人間社会にどのように及ぶのかを言うのはむずかしい。

しかし、「環境保全とエネルギー資源確保についてむずかしい決断をせまられる」と言ってよいのではないかと思う。いま化石燃料原子力に頼っているエネルギー需要のすべてを自然エネルギー(更新可能エネルギー)でまかなうことはできればよいのだが、それはすぐにはできないし、将来必ずできるという見通しもまだ立っていないのだ。

困ったことに、明らかに影響を受ける将来の世代が発言できないだけでなく、今の世代でも、民主主義の政治体制のない国の人々は発言できないし、日本を含めて民主主義の体制のある国でも問題をきちんと整理したうえで国民全体として意思決定ができるかどうか疑問だ。ともかく、問題を理解できる人が他の人々の立場をよく考えながら政策の案をつくり、民主主義体制の国ではその代表者を通じて正式な政策にしていくのが最善だろう。

当面(と言っても10年くらいかかって準備し次の10年くらいで実行する政策だが)の選択肢は次のようになるだろう。

  1. 化石燃料を使い続け、二酸化炭素を大気中に排出しつづけて、必然的に起こる地球温暖化(単純な温度上昇だけでなく場所によって違う大雨や干ばつの増加を伴う)に適応する。とくに海面が100年で5メートルくらい上昇する確率が上がる(定量的確率はまだわからないし、二酸化炭素排出をやめても防げない可能性もあるが)ことを覚悟し、世界の水田や港湾都市などの全面的再配置計画を始める。
  2. 化石燃料を使い続けるが、二酸化炭素を大気以外の海か陸のどこかに押しこむ。これによって温暖化および海洋酸性化を軽減する。二酸化炭素が押しこまれた場所の環境悪化は避けられない。たとえば海洋中層に入れるという判断をするならば、海面近くの浅い層の強い酸性化よりは海洋中層の厚い層のそれほど強くない酸性化のほうがましであるという価値判断をすることになる。事故によって大気中に二酸化炭素が出てくる可能性も覚悟する必要があるが、その確率をなるべく低くおさえる。おそらく環太平洋地殻変動帯(日本、台湾、フィリピン、インドネシアニュージーランド、チリ、カリフォルニア、カムチャツカなどを含む)の地下では千年間続く隔離は困難なので、それ以外の地域にお願いするしかないだろう。現地の人に迷惑施設を引き受けてもらう代償を提供できるだろうか。
  3. 化石燃料使用を減らし、その代わりに原子力に頼る。原子力発電所と廃物処分所の立地適地を世界でさがし、現地の人の了解を得てそこに世界の需要をまかなう施設を配置する。需要地まで送電線をひくか、あるいは燃料を合成して運ぶことになる。日本の需要への対応はメタンを合成して液化天然ガスと同じ形で運ぶことが考えられる。環太平洋地殻変動帯には立地適地はないだろう。その他の海岸も津波災害のおそれはある。しかし冷却のために海水を使えないところは立地適地とは言いがたい。安定陸塊の海岸に、厳重な津波対策をして立地することになるのだろうか。
  4. 化石燃料使用も原子力依存も減らし、エネルギー供給量に限りがあることを受け入れてそれに産業や生活を適応させる。日本などの工業国の経済成長率は、もしみんなががんばってさらに運がよければ正になる年もあるかもしれないが、たぶん10年くらい負の値が続くことを覚悟する。

もちろん、以上の理念型の混合も考えられる。しかし、どの類型にも同程度の困難があると思われるので、混合しても困難の総量が減るわけではなく、内わけが変わるだけだろう。