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数量の話をするときは単位を確認しましょう

4月29日の記事で述べた隈本さんの講演の最初にあった話。

石原慎太郎東京都知事が、4月11日に再選されたときの記者会見で、自動販売機とパチンコは電気のむだづかいであり節電が必要なときには率先して止めるべきだ、という趣旨のことを述べたことはよく知られている。わたしは石原さんの主張に賛成しないことが多いのだが、この主張は(定性的に)もっともだと思った。

ところが、石原さんは、東京都内の自動販売機とパチンコの使う電力が、止まった福島第1・第2原子力発電所の発電量と同程度だと言ったそうだ。それは過大評価だと両業界団体から抗議された。石原さんは、キロワットの単位で示される電力(単位時間あたりのエネルギー)と、キロワット時の単位で示される電力量(エネルギー)とを混同していたらしい。このことをわたしは隈本さんの講演を聞いて知ったのだが、そのあと見たら、たとえば集英社のウェブサイトの記事http://wpb.shueisha.co.jp/2011/04/18/4052/ にも同じ話があった。

隈本さんが(わたしも)残念に思っているのは、石原さんの示した数値の比較が正しくなさそうなことに、ジャーナリストが、記者会見の場でも、編集の場でも気づかず、そのまま新聞などの記事になってしまったことだ。(業界団体の抗議はそのあとのことだ。) 電力量の数値を示されて正しいかどうか判断できる人はめったにいないが、数量相互の比率についての指摘なのだから、電力の用途に関する常識に合わないと直感し、もう少し詳しく調べる段階に進む人がいるべきではなかったか。

エネルギー量を評価する期間のとりかたに関する計算まちがいは科学者でもしがちなことだ。しかし、計算結果の数量を人に示す前に、量の桁を確認しておくだけでも、ひどいまちがいはだいぶ防げる。

(わたしはまだ問題のまちがいがどんなとりちがえによるものだったのか正確に理解していない。年間の電力量がキロワット時で示されたものを年平均の電力をキロワットで示したものとみなしたとすれば、1年の時間数つまり約365×24=8760倍の過大評価になると思うが、石原さんがそこまで過大な数値を示したわけではないようなので、もう少し複雑な説明が必要になりそうだ。[2012-06-24補足] まだよく理解していないが、上記の集英社の記事から解釈すると、1日の電力量と電力の混同に、変動する自動販売機の電力量の最大値をとるか平均値をとるかの違いが重なったのだと思う。実際の変動を考えると、ピーク消費電力は平均値よりもだいぶ大きいが、全部の機械が同時に最大値を消費するというのも現実的ではない。)