macroscope

( はてなダイアリーから移動しました)

太陽が出す可視光のエネルギーは黒点が少ない時期のほうが多いのか?

菊池誠さんのブログ「Kikulog」の「地球温暖化懐疑論批判(2)」の記事 http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1270268042 へのコメント(現在1047番)として10月10日に書いたことの後半のくりかえしになりますが、ここにも書いておきます。

太陽からくるエネルギーの変動に関して、(専門家にとって)意外な結果が得られ、論文がNature (ネイチャー)というイギリスの雑誌にのったのをきっかけに、地球温暖化の議論が大きくゆらぐのではないかという形で話題にする人もいます。

これはまさに「作動中の科学」(science in action)のひとこまで、注目すべき新知見が得られたのですが、あわてて新知見が正しくて旧知見がまちがいだと決めつけないほうがよい状況です。

社会が科学的知識を共有するために必要なのは、個別の研究発表よりもむしろ、数年間の進展の総合です。IPCCも総合するしくみのひとつですが、社会はほかにも総合された科学的知識を共有するしくみを育てていく必要があると思います。

太陽活動は黒点数で代表され、約11年周期の変動が知られていますが、1970年代以後の観測により、太陽からくるエネルギーの総量も、紫外線部分の量も、黒点数が多いときのほうが多いことがわかってきました。(黒点自体が出すエネルギーはまわりより少ないのですが、黒点が多いときには太陽表面の明るい部分も多い傾向があるのです。) エネルギー総量の変化については、教材用ウェブページ http://macroscope.world.coocan.jp/ja/edu/clim_sys/erb/solconst.html に時系列グラフを示しました。

2003年から、太陽放射の紫外線・可視光線・近赤外線部分を分けてエネルギー量を人工衛星で観測するSORCEという実験観測プロジェクトhttp://lasp.colorado.edu/sorce/ が始まりました。イギリスの研究者Joanna Haighさんが中心になってその結果を整理してみると、総量と紫外線部分についてはほぼ従来の認識どおりですが、可視光の部分が、黒点数が多いときのほうが逆に少ないという意外な結果になりました。論文は http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7316/full/nature09426.html に出ています(英語で、要旨はだれでも見られますが、本文に進めるのは購読者に限られます)。もしこれが正しいとすると、気候モデル実験に使われてきた太陽放射変動の入れかたを考えなおす必要があります。

ただし、まず、黒点周期に伴う太陽放射の変動はそれ自体の約千分の1で、地表面積あたり・単位時間あたりのエネルギーの流れとして比べて、数十年間の人為起源CO2量増加による下向き赤外放射増加に比べて桁が小さいです。次に、SORCE実験による太陽活動の評価は黒点周期ひとまわりをカバーするまでは暫定的なものと見るべきでしょう。第3に、RealClimateというブログのGavin Schmidtさんによる記事 http://www.realclimate.org/index.php/archives/2010/10/solar-spectral-stumper/ によれば、SORCE実験で得られた数値をJudith Leanさんという太陽活動の専門家が整理したグラフを見ると、可視光部分が全体と逆の変化を示しているのは観測の初期2年ほどだけで、観測機器の技術的問題があった(その後なぜか解消した)可能性が高そうです。(無人人工衛星上で観測機器を較正することはむずかしいことなのです。)