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来年度科学技術予算の優先度について、わたしの意見

9月7日の記事で書いたように、9月17日まで、科学技術関係施策の優先度判定のための国民の意見の募集があった。

国民ならばだれでも意見が言えるわけなので、たくさん集まったと思う。しかるべき人が目を通す時間がとれるのだろうか。件数だけが問題になるという噂もあった。不意討ちで投票として扱われたのでは困る。しかし、重要性を主張する人がだれもいない課題の優先順位が下がることは当然かもしれない。

全部で約280件のうち、わたしは20件あまりについて意見を書いて送った。

意見を書く欄は、意見自体と理由とについてそれぞれ「200字程度を目安に」という字数指定があった。自分のブラウザで見えた枠の大きさに合わせて書きこみ、字数を数えなかったのだが、目安の1倍半くらいの長さになったものが多かった。(少し前に意見を書いたある新聞社のシステムは指定の字数を越えると削るまで受けつけてくれなかったが、内閣府のシステムはそうではなかった。2倍くらいのところにきびしい制限があるのかもしれないが未確認。)

国の科学技術予算から給料をもらっている身なので、利害関係者として遠慮するべきか迷った。しかし、自分だけでなく知り合いまで含めれば、専門に関連する分野はみな利害関係があるとも言える。研究開発の意思決定をその分野の専門家をはずして行なうべきだというのはおかしい。結局、わたしは給料の主要部分をもらっている事業については意見を言うのを遠慮した(ただし、もし具体的な改革案を持っていたら述べたにちがいない)。給料の一部をもらっていたり、分担者になっているものについては、「改善・見直しをした上で推進すべき」として具体的な意見を述べた。

気候変動予測については、あと1年は今の事業(革新プログラム)の最終年度であり国際的約束もあるのでそのまま推進してほしいとしたが、その次の段階では、今の事業のようにIPCCへの貢献ばかりを目標にするのではなく、持続可能性という大きな目標のもとで科学的目標を自主的に設定するべきだと書いた(と思う。この項目については手違いで送った内容が手もとに残っていない)。

今年度から始まっている気候変動適応戦略イニシアチブについても推進してほしいとした。ただし、その一部という形になっている地球環境情報統融合については、複数の省の管轄下のデータを合わせて提供する機能をもつべきだが、文部科学省の単独事業では無理であり、含めたいデータには総務省統計局のデータや気象庁現業観測データなど科学技術行政の範囲を越えるものもあるので、内閣レベルの意思決定、さらに必要ならば国会に立法を要請して、担当機関を決め,各省がそこへデータを集める意志をもつ必要があるという趣旨のことを(そこまで強い表現ではなく要望としてだが)述べた。また、外国からデータ提供を受けるためには、機関の持続性に関する信頼が必要であるとも述べた。

地球規模課題に関する科学技術協力(外務省-JICA、文部科学省-JST)と、地球観測衛星、そのセンサー開発、そのデータの利用に関する国際協力(文部科学省-JAXA総務省-NICT)は、すなおに重要だと書いた。さらに、予想外の困難が生じた場合には、国際的約束が達成できるよう追加の措置を考えてほしいとも述べた。

温暖化軽減策の政策研究には、適応策もあわせて考える必要があると言った。太陽光・風力・海洋エネルギー技術研究には、環境観測データを活用してくださいと言い、技術標準化には、環境データの標準化も助けてくださいと言った。これらの多くは経済産業省の事業である。地球環境情報統融合には、アクションプラン(7月27日の記事参照)で、国土交通省農林水産省環境省の事業との連携は明示されているが、経済産業省との連携もぜひ必要だと思ったので、関係しうる事業のそれぞれについて連携を考えてほしいという意見を書きこんだ。(もしアメリカのように産業界が環境問題否定論に傾いていたら、環境データ管理に経済産業省をまきこむのはこわいのだが。)

沖縄大学院大学については、熱帯アジアの課題にシフトせよと書いた。知的財産の件では、知的公共財も重視せよと書いた。原子力、とくに高速増殖炉核融合の件では、実用化可能と思いこまず環境・技術アセスメントをせよと書いた。メタンハイドレートの件も、破壊現象やメタン漏出のアセスメントを求めた。燃料電池の件では、水素普及をあきらめて全力で別の物質をさがせと書いた。このあたりについては、わたしは明らかに専門家ではなく、研究論文や専門書を読んだわけでもなく、普及解説書や評論書をもとにした総論的意見だ。専門分野の課題に関する意見よりも不確かさは大きいと思う。もし根拠を問われれば底が浅いことがわかる。しかし、業界人だけにまかせておけないという思いもあった。この部分についてのわたしの動機は主として個人の政治的意見である。ただしその意見を形成する材料のうちに自分なりの広い意味の科学的思考はある。