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「グリーン・イノベーション」の「アクション・プラン」(環境志向の技術革新普及に向けた行動計画)

(題名は、われわれが選挙して決まった政府が使っている用語だが、英語もどきばかりでとても不満なので、日本語訳を試みてみた。)

7月16日に総合科学技術会議で「平成23年度の科学技術に関する予算等の資源配分の方針」が決まったそうだ。http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/houshin.html にPDF文書がある。

科学技術重要施策については、概算要求に先立って「アクション・プラン」を策定することになっている。ただし、その方針の初年度なので、アクションプランは、「最重点化課題」とされた「グリーン・イノベーション」と「ライフ・イノベーション」の一部を対象としている。

アクションプランの文書は http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/action.html にある。とくに「平成23年度科学・技術重要施策アクション・プラン」を見てみた。ここでは、「グリーン・イノベーション」の部分について、個人的意見を含めて述べる。

イノベーションは日本語では「技術革新」だが、技術が開発されるだけではなく、それが社会で広く使われることまで含めている。したがって、アクションプランには、科学技術政策だけではなく、制度づくりが含まれることがある。総合科学技術会議の権限をこえると思うが、会議の議長は総理大臣なので、内閣として推進する方針であると期待したい。

「グリーン・イノベーション」は、「地球的規模の課題である気候変動問題を克服し、世界に先駆けた環境先進国日本」をめざすものなのだそうだ。平成23年度には5つの「施策パッケージ」がある。(「ライフ・イノベーション」のほうには3つがある。) 複数の省(内閣府も数えるので現在の行政用語としては「ふしょう」...わたしの辞書にない)がかかわるものが選ばれている。各パッケージのアクションプランは10年の構想として示されている。実際にはおそらく5年継続の2期として計画されるのではないかと思う。

「グリーン」とは「環境に配慮すること」なのだと思うが、それを「気候変動問題の克服」と言ってしまうのはしぼりすぎだ。生態系保全も重要だと思うが「課題」「方策」「施策パッケージ」のいずれのレベルの題目にも見あたらない(施策パッケージの中身まで見ると「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」の目標になってはいるが)。さらに、「課題」のほとんどがエネルギー資源の「低炭素化」および節約に関するものだ。気候変動問題の克服とは炭素排出削減だという短絡した考えのようだ。しかし、内容を見ると、人間活動の自然へのインパクト(エコロジカル・フットプリント)を減らすことにつながりそうな策に重点がおかれているので、結果としてはだいたいよいと思う。「原子力発電による社会の低炭素化の推進」という方策はこの点で疑問だが、幸か不幸か平成23年度パッケージには間に合わなかったようだ。

再生可能エネルギーへの転換」という課題に対して、「太陽光発電の飛躍的な性能向上と低コスト化の研究開発」と「木質系バイオマス利用技術の研究開発」がある。

複数ある再生可能エネルギー資源利用技術のうちで、日本が重点を太陽電池におくのはもっともだと思う。せっかくよい技術があるのにあまり普及していないという状況なので、2030年に他の発電方式なみの低コスト化をめざす、という目標設定も、実現可能かどうか知らないが挑むべきものだと思う。(ただし金額の数値は、これからエネルギー資源と他のものとの相対価値が変わると思うので、ほとんど無意味だと思うが、経済に関する楽観的な仮定を置いて計算しておくしかないのだろう。) 今まで実用になっていなかった新材料も試みるべきであり、「目的基礎研究」という用語の意味はよくわからないが、たぶんそのようなものが必要であることもわかる。普及のためには、太陽光エネルギー資源がいつどこにどれだけあるのかの知識の向上も必要なはずだが、文書中には見あたらない。「地球観測情報の活用」のほうでとりあげられればよいのだが。

バイオマス利用技術」は、農林水産省が活躍できる課題として選ばれたようだ。文字通りバイオマス利用技術ならば、木造家屋や紙を長持ちさせること、セルロースとリグニンを分離・再結合して材料として使うこと(わたしは数年前に大学での研究例をNHKの番組で見た)など、物質資源として使うことをもっと考えるべきだと思う。ところが今回は、先に再生可能エネルギー資源という枠が設定されたらしい。その範囲のうちに限れば、セルロースからエタノールやその他の液体・気体燃料を作る変換効率を上げコストを下げることはもっともだと思う。ただし燃料資源としては「木」よりもむしろ「草」を考えるべきではないだろうか。森林行政はあるが草地行政がないので考えにくかったのかもしれないが。

エネルギー利用の省エネ化」という課題の下に、「蓄電池/燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化の研究開発」と「情報通信技術の活用による低炭素化」がある。

再生可能エネルギーの多くは、ほしい時・ところで得られないので、エネルギーの貯蔵と運搬を楽にできるようにすることはとても大事だと思う。そしてその方法の主役が電気エネルギーを化学エネルギーとしてたくわえること、つまり蓄電池・燃料電池だというのももっともだ。ただし、このパッケージは「次世代自動車の普及による交通運輸分野の低炭素化」という「方策」の具体化として考えられたらしく、目標設定が自動車に限られている。きっかけは自動車でもよいと思うが、家庭などの小規模固定利用もいっしょに考えるべきだと思う。また、燃料電池の燃料としては水素が想定され、「水素供給システムの整備」もすることになっている。水素は圧縮・液化・吸着のいずれの方法でも漏らさずに運ぶのがむずかしく、移動用の燃料にするのは、いくら技術革新に投資しても原理的に困難だと思う。一刻も早く、水素は象徴的例示と解釈しなおし、扱いやすい還元的物質の開発に進んでほしい。(読書メモ参照。)

「情報通信技術の活用による低炭素化」には、電力のスマートグリッドの構築もあげられてはいるが(スマートグリッド太陽光発電の項目にも出てくるが)、大部分はむしろ「情報通信技術の低炭素化」というべき技術開発がならんでいる。すぐ始める重点施策としては、題名のほうが不適当なのであって内容はこれでよいと思う。電力消費の少ない素子を開発したり、ネットワーク上の「クラウド」サービスを支えるシステムをエネルギー資源を節約する形で構築することなどだ。将来の社会全体にとって、情報技術をさらにのばすことが必要というべきかはよくわからないが、将来とも情報技術を使いたい者としてはそれを資源節約型にすることを強く望む。電力のスマートグリッドについて今必要なことは概念をよく考えることだと思う。(わたしの主観としては、マイクログリッドは必要だが、広域スマートグリッドは避けるべきだと思う。)

社会インフラのグリーン化」という課題の「豊かな緑環境・自然循環の形成」という方策に関するものとして、「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」という施策パッケージがある。ここでいう地球観測情報には、予測モデルの計算結果も含まれる。今年度までの5年間、このような地球観測情報を統合利用するための技術開発の事業が進められてきた。これからはそれを社会基盤(インフラストラクチャー)として役立つものにすることをめざして、まずはいくつかの実利用を試みることになる。これまでの技術開発は大学と研究開発型独立行政法人で進めてきたが、今後は新しい体制が必要であり「連携プラットフォーム」という名前で示されている。省の境をこえた多様な情報を公共に提供する機能をもつことは、今の制度のもとではどの省あるいはその監督下の法人にとっても困難なので、プラットフォーム維持担当機関を決めその設置法を改正してこの機能を明確に書きこむことを、内閣と国会に要望したい。具体的効用としては、気候変動に対応した循環的食料生産の推進(農林水産省)、局地的大雨対策(国土交通省)、自然生態系の保全(環境省)があげられている。地球観測情報の応用はこれだけではないが、このパッケージで構築された基盤を他の予算の施策が使う形にしていくのだろう。