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気象むらの方言

地衡風、旋衡風、傾度風、温度風

(中に出てくる用語の説明はこれまでの「気象むらの方言」の記事にあるものが多い。ひとまず、本文から各記事へのリンクはつけていない。[このカテゴリーの記事一覧]を参照していただきたい。)大気の大部分(地表面に近い「境界層」を除いた、「自由大気」と呼…

モデルとパラメタリゼーション

(中に出てくる用語の説明はこれまでの「気象むらの方言」の記事にあるものが多い。ひとまず、本文から各記事へのリンクはつけていない。このカテゴリーの記事一覧を参照していただきたい。)気象学の中でも「モデル」ということばは文脈によって違う意味に使…

コリオリ (Coriolis)の力(ちから)

多くの人が「コリオリ(Coriolis)の力(ちから)」は気象学特有の用語と思っていると思う。海洋物理学を知っている人はそう思わないだろうが、気象学と海洋物理学に特有の用語だと思うかもしれない。実際には、これは物理学のうちの力学に共通のことばだ。わた…

放射強制(力?) -- radiative forcing

「放射強制力」(英語ではradiative forcing)という用語は気象学者の間でも通用するとは限らない。しかし、地球温暖化のしくみを説明しようとすれば、表現はともかく、これに対応する概念を含む話になるはずだ。これは物理学用語でいう「力」ではない。それに…

気温減率、断熱減率

物理量の勾配について、[「勾配・傾度、気圧傾度力」の記事]ではまず圧力の場合について述べたが、温度についても同様に、鉛直方向や水平方向の「温度勾配」あるいは「温度傾度」が論じられる。鉛直方向の温度勾配については特別な用語がある。大気のうち地…

勾配・傾度、気圧傾度力

物理量が空間座標とともに変化するとき、物理量を空間座標で微分したものをその物理量の「勾配」あるいは「傾度」(「経度」と音が同じだが書きわけている) (英語ではgradient)という。もともとは、地表面の高さを水平の座標で微分したものがそこの地形の勾配…

不安定

気象学で使われる「不安定」(英語では形容詞unstable、名詞instability)ということばにも、広い意味、狭い意味がある。理論用語としての「不安定」気象学のうちでも力学分野の理論では「不安定」ということばがとてもよく使われる。たとえば温帯低気圧[4月9…

対流

「対流」(英語ではconvection)ということばの意味は、気象学のうちでも場合によって広かったり狭かったりする。熱伝達論でいう「対流」、気象学では「移流」と「乱流輸送」まず、熱伝達論(伝熱工学)でいう「対流」についてことわっておく。エネルギーの伝達…

暴走温室効果

地球大気の温室効果[5月20日の記事参照]をもたらしているのは、まず水蒸気だ。(その次に重要なのが二酸化炭素だ。)何かの理由で地上気温[3月29日の記事参照]が上がると、地球の大気の下には海があるので、地上気温が上がれば、海から水が蒸発して大気中の水…

温室効果

このことばは他分野でも使われるようになったが、議論の混乱を避けるため、他分野のかたも気象学者の使いかたに合わせていただきたいと思う。「温室効果」(英語 greenhouse effect、フランス語 l'effet de serre、ドイツ語 Treibhauseffekt)は、地球などの惑…

潜熱、顕熱

潜熱ということばは、エネルギーの概念ができる前の熱素説のなごりなのだが、今も広い意味の物理科学(おもに化学)で使われていることばだと思う。現代流にいうと、物質の内部エネルギーは、温度によって変化するほかに、同じ物質で、同じ温度でも、固体・液…

太陽定数

「太陽定数」(英語ではsolar constant)とよばれる数量は定数ではないので、この用語は不適切だ。しかし、これまでに書かれた文献を読むためにはこの用語を知っておく必要がある。また、英語ではTSI (total solar irradiance)への置きかえが進んでいるようだ…

(元祖) WWW

WWWは、全世界にわたる情報ネットワークである。各地それぞれに独立した主体が情報を収集し発信する際に、あらかじめ約束された国際的標準に従うことによって、世界規模での情報共有を可能とする。しかも、電気通信を利用することによって、紙などを運ぶ通信…

GCM

気象むらで「GCM」と言えば、「大循環モデル」(general circulation model)のことだ。1990年代以後は「全球気候モデル」(global climate model)のつもりで使う人もいるが、その違いは会話にさしつかえないことが多い。【[2014-01-30補足] 大気の大循環モデル…

(勧めたくない用語) 可降水量

可降水量 (precipitable water)とは、雨や雪となって降ることができる水蒸気の量、ではない。ある瞬間に大気中に存在する水蒸気量を、鉛直方向には地表面から(理屈のうえでは)ここより上には空気がないと言える「大気上端」まで積算したものだ。水平方向には…

降水量、なんミリ?

降水量の単位「ミリ」はミリメートル(mm)だ。降った雨が蒸発することも土にしみこむこともなく積みあがったらどれだけの高さになるか、と説明されることがある。雪はとかして液体の水にして勘定に入れる。ただし降水量は循環している水の流れに関する量だ。…

フラックス、なんワット(毎平方メートル)?

「フラックス」(英語flux)は、何かの流れを示す物理量に使われる用語だ。単位時間あたりに、ある面のある有限の大きさをもった部分を通過する(あるいはそこに到着する、あるいはそこから出ていく)物質の質量が、質量フラックスで、SI単位はキログラム毎秒(kg…

重力波

気象に限られない流体力学の用語だが、流体以外の物理の人はたぶん別のものを考えてしまうだろう。重力波(英語ではgravity wave)とは、重力を復元力とする古典力学的な波だ。海の波(波浪)も重力波だ。ただし気象で扱う重力波はたいてい「内部重力波」で、大…

海面気圧、海面更正

地上天気図には、地面のすぐ上(気温ならば2メートル上、風速ならば10メートル上が標準)で観測された数値が示される。しかし、天気図でいちばん重視される変数である気圧は、そのままではなく、海面の高さでの値になおして示されている。陸上のほとんどの場所…

ヘクトパスカル(hPa)

- 1 - 気圧の単位として、今ではヘクトパスカル(hPa)が標準的に使われる。気圧は圧力であり、圧力のSI (国際単位系)の標準の単位は、メートル・キログラム・秒のかけ算・わり算で組み立てられたパスカル(Pa)[ニュートン毎平方メートル]だ。ヘクト(hecto)はSI…

短波放射、長波放射

短波とは波長の短い波、長波とは波長の長い波のことだ。だが、どのくらいのものを長いというのかは、話題によって違う。気象学では、大気の力学的な波動についても「長波」などの表現が使われることがあった(「超長波」もあった)が、最近はあまり見かけない…

氷河時代、氷期、小氷期 / (勧めたくない用語) 氷河期、小氷河期

- 記事分類上のおことわり - この記事をひとまず「気象むらの方言」に入れたがこれは正確な分類ではない。ここでの話題は、気象学の用語というよりも、古気候学の用語だ。ただし、古気候学は教材が標準化された専門分科ではなく、地球科学のさまざまな専門分…

ラグランジュ(Lagrange)型とオイラー(Euler)型

これは気象だけでなく、流体力学の分野に共通なのだが、力学でも流体以外の人には通用しないと思うので、いわば「流体地方の方言」だと思う。 - 1 - 流体の運動、とくに運動方程式をどう記述するかについて、大きく分けて二つの態度がある。ラグランジュ型と…

低気圧、高気圧

「気圧」は、空気の圧力のことであり、物理量である。気象の文脈では「気圧」と「圧力」という用語は区別なく使われる。しかし「高気圧」「低気圧」というのは物理量ではなく、大気中に現われた構造をさす用語である。水平2次元的構造をさす場合と、3次元的…

p座標

[前の記事]で、気象で使う鉛直座標は高さ(海抜高度) z だとした。実際 z を使うこともあるのだが、むしろ気圧(大気の圧力) p を鉛直座標として使うことが多い。水平座標を固定して鉛直だけについて考えると、ほとんどの場合、気圧は高さの単調減少関数だ。つ…

{x, y, z} {u, v, w}はどの方向?

3次元空間中の位置は3つの実数で表現できる。直交直線座標を使って(x, y, z)で表現したり、球座標を使って(r, θ, φ)で表現したりする。地球上の位置は、(緯度, 経度, 高さ)で表現することが多い[気象学の教材ページ参照]。 正確に述べようとすると、地球の形…

頭文字略語、MJO、ENSO、NAO、AO、PDO、AMO

気候に関心のある気象学者・海洋学者が使う英語頭文字略語は O で終わるものが多いようだ。そのうち固有名詞的なものの O は、「組織」や「機関」を意味するorganizationであることが多い。他方、概念を表わす略語の O は oscillation (振動)であることが多…

頭文字略語、SST

専門的な内容の文章には略語が出てくることが多い。専門的概念を表わす語は長くなることが多く、その語をたびたび使いたい場合に毎回正確な表現をすると、くどくなってしまい、決められた字数の枠に書ける情報が少なくなってしまうのだ。日本語では、専門用…

いろいろな平衡

「平衡」ということばは文脈によって違った意味に使われる。第1は、力のつりあいだ。ある物体にかかる力のベクトルとしての合計が0になることであり、Newtonの運動方程式によって、その物体は静止または等速直線運動をすることになる。気象でよく使う「静水…

地表面、地表面温度、地上気温

地面(陸面)と水面(海面、湖面)のどちらにもあてはまる用語は日常には必要ないのかもしれないが、気象学では必要になる。下が固体であろうと液体であろうと、大気という気体のあるところの下の端の面をさすことばだ。日本語では「地表面」という。英語では単…