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気象むらの方言

モンスーン、monsoon、季節風

「モンスーン」と「季節風」は、どちらも英語の monsoon に対応し、同じ意味のことばとして扱われることもあるが、区別されることもある。意味の広がりが一定しないので、文脈ごとに確認が必要だ。本論にはいる前に、関連する他の用語についておことわりする…

アルベド (albedo)

Albedo は英語では「アルビードウ」のように発音されることが多いようだが、日本語でふつうの「アルベド」という表記はラテン語に忠実なようだ。もともとラテン語で「白さ」のような意味の語らしい(が、「alb-」が「白い」に関連することだけしか確認してい…

(勧めたくない用語) 暖かい雨

気象学の話題で「暖かい雨(英語ではwarm rain)」「冷たい雨(cold rain)」という表現が使われることがある。これは、雨ができるしくみに関する分類だ。雲粒は水滴または氷の結晶で、雨粒も水滴だが、大きさが違う。雨粒ができるためには、たくさんの雲粒が集…

zonalとmeridional、東西方向と南北方向

気象に関する英語の文書では、zonal と meridional ということばがよく現われる。そのいちばん多く使われる意味は、地球上の位置を示す座標に関するもので、東西方向がzonalで、南北方向がmeridionalなのだ。たとえば、風について([2012-03-18の記事「西風は…

大循環

「大循環」ということばについては[「GCM」の記事]でふれたが、もう少し説明を加えたい。大気の大循環は、大規模な循環にちがいないのだが、この語の意味はそれだけではない。しかし、それではどういう意味か定義のような形で示そうとすると、そう簡単ではな…

気象学での実験

(2月に書きはじめて書きかけだった記事。5月10日に出席した会合で、気象学でのシミュレーションは実験か、という話題があったので、思い出した。)「気象学では実験はできない」と言ってしまうことがある。他方、数値モデルによるシミュレーション(のすべてで…

凝結

気体から液体への相変化は、一般的物理・化学の用語では「凝縮」である。しかし気象学用語では「凝結」という。どちらも英語のcondensationに対応する。気体に対して、液体と固体をまとめて、英語でcondensed matterといい、日本語の物理学用語でも「凝縮体…

最終氷期、(勧めたくない用語)「ウルム氷期」

[2012-04-24の記事「氷河時代、氷期、小氷期」]に続く話題。そのときと同様に、「気象」の用語ではなく、「古気候」の用語だが、便宜上「気象むらの方言」のカテゴリーに含めておく。「ウルム氷期」は「ヴュルム(Würm)氷期」 日本語で1950-70年代に書かれた…

DJF、JJA

気候学者や気象学者にとって、季節が重要なものごとであることはまちがいない。しかし、いつからいつまでを何という季節と呼ぶべきかとなると、こだわるかこだわらないかの両極端に分かれるようだ。直前の記事で紹介した「日本には6季がある」と主張する人々…

梅雨、秋雨/秋霖

日本の気候あるいは季節の話をしようとすれば、梅雨を無視はできないだろう。一般の日本語圏では、「梅雨」と書いて「つゆ」と読む熟字訓がよく使われる。しかし気象学用語の「梅雨」は「ばいう(Baiu)」である。第2次大戦後の国語政策で学術用語には熟字訓を…

バックビルティング?

九州北部豪雨が起きたしくみについての報道で、「バックビルディング」ということばを見かけた。出どころは気象庁の報道発表「平成24年7月九州北部豪雨」の発生要因について 〜強い南西風の持続と東シナ海上からの水蒸気供給〜に資料としてつけられたPDF文書…

地表面のエネルギー収支と水収支

保存則と収支 自然科学で「収支解析」が有効なのは、たいてい、質量保存やエネルギー保存の法則の応用だ。質量やエネルギーについて、次のような式が成り立つ。 d(たまっている量)/dt = 収入 - 支出 ここで「たまっている量」を「貯留量」と書こうと思ったの…

放射(radiation)、正味放射(net radiation)

電磁波と放射能 気象学で「放射」と言ったら、電磁波の伝達・電磁波によるエネルギーの伝達をさす。いわゆる放射能(α線、β線、γ線、中性子線など)に関係する「放射線」「放射能」「放射性」と、形を示す「放射状」は別だが、例外と考えてよいだろう。【[2013…

Sv (スベルドラップ、海洋学で使われる単位)

これは気象むらではなく、となりの海洋学むらの方言だが、気象むらにも、昨年の原子力発電所事故以来毎日のように現われるSvという文字列に、理屈はわかっても頭の奥のほうの切りかえができなくて毎度まごつく人はかなりいると思う。うちのほうのSv (sverdru…

総観規模 (synoptic scale)

「総観」ということばは気象学・気候学に特有だと思う。気象学・気候学では発音が同じ統計学用語の「相関」も出てくるので注意が必要だ。今では、この概念は空間スケールを示す「総観規模」(英語synoptic scale)が基本だと考えてよい。水平スケール数千kmだ…

傾圧不安定

「傾圧不安定」(英語でbaroclinic instability)は、温帯低気圧ができるしくみの話に出てくる概念だ。気象力学で使われる「不安定」ということばの意味については、[5月29日の記事]と[きょうの「CISK」についての記事]を参照してほしい。「傾圧」は「順圧」(b…

第2種の条件つき不安定=CISK

「第2種の条件つき不安定」(英語でconditional instability of the second kind、略してCISK)は、台風を含む熱帯低気圧[6月15日の記事参照]ができるしくみの話に出てくる概念で、前に述べた「不安定」[5月29日の記事参照]という用語が使われているもうひとつ…

前線

気象用語の「前線」は英語では frontという。軍事用語で敵対する軍がぶつかっているところをさすことからの類推にちがいない。概念的には、線の両側に質の違う空気があるような状況で、その線が前線なのだ。実際には空気は連続体でありその温度や湿度などの…

台風

台風とは強い熱帯低気圧 [「低気圧、高気圧」の記事参照]のことだ。日本の気象庁の用語では、地上の風速【注】が約17 m/s (正確にはノット単位で定義されている)を越えると「台風」としている。かつてはこの基準に達しない熱帯低気圧を「弱い熱帯低気圧」と…

低緯度・中緯度・高緯度、熱帯・温帯・寒帯

「低緯度、高緯度」という表現は一定の約束に従って使われているわけではない。それぞれの話題の文脈で、相対的に赤道側か極側かを表わす。ただし、「低緯度、中緯度、高緯度」という組で使うときは、だいたいどのくらいの緯度をさすかの共通理解はあると思…

地衡風、旋衡風、傾度風、温度風

(中に出てくる用語の説明はこれまでの「気象むらの方言」の記事にあるものが多い。ひとまず、本文から各記事へのリンクはつけていない。このカテゴリーの記事一覧を参照していただきたい。)大気の大部分(地表面に近い「境界層」を除いた、「自由大気」と呼ば…

モデルとパラメタリゼーション

(中に出てくる用語の説明はこれまでの「気象むらの方言」の記事にあるものが多い。ひとまず、本文から各記事へのリンクはつけていない。このカテゴリーの記事一覧を参照していただきたい。)気象学の中でも「モデル」ということばは文脈によって違う意味に使…

コリオリ (Coriolis)の力(ちから)

多くの人が「コリオリ(Coriolis)の力(ちから)」は気象学特有の用語と思っていると思う。海洋物理学を知っている人はそう思わないだろうが、気象学と海洋物理学に特有の用語だと思うかもしれない。実際には、これは物理学のうちの力学に共通のことばだ。わた…

放射強制(力?) -- radiative forcing

「放射強制力」(英語ではradiative forcing)という用語は気象学者の間でも通用するとは限らない。しかし、地球温暖化のしくみを説明しようとすれば、表現はともかく、これに対応する概念を含む話になるはずだ。これは物理学用語でいう「力」ではない。それに…

気温減率、断熱減率

物理量の勾配について、[「勾配・傾度、気圧傾度力」の記事]ではまず圧力の場合について述べたが、温度についても同様に、鉛直方向や水平方向の「温度勾配」あるいは「温度傾度」が論じられる。鉛直方向の温度勾配については特別な用語がある。大気のうち地…

勾配・傾度、気圧傾度力

物理量が空間座標とともに変化するとき、物理量を空間座標で微分したものをその物理量の「勾配」あるいは「傾度」(「経度」と音が同じだが書きわけている) (英語ではgradient)という。もともとは、地表面の高さを水平の座標で微分したものがそこの地形の勾配…

不安定

気象学で使われる「不安定」(英語では形容詞unstable、名詞instability)ということばにも、広い意味、狭い意味がある。理論用語としての「不安定」気象学のうちでも力学分野の理論では「不安定」ということばがとてもよく使われる。たとえば温帯低気圧[4月9…

対流

「対流」(英語ではconvection)ということばの意味は、気象学のうちでも場合によって広かったり狭かったりする。熱伝達論でいう「対流」、気象学では「移流」と「乱流輸送」まず、熱伝達論(伝熱工学)でいう「対流」についてことわっておく。エネルギーの伝達…

暴走温室効果

地球大気の温室効果[5月20日の記事参照]をもたらしているのは、まず水蒸気だ。(その次に重要なのが二酸化炭素だ。)何かの理由で地上気温[3月29日の記事参照]が上がると、地球の大気の下には海があるので、地上気温が上がれば、海から水が蒸発して大気中の水…

温室効果

このことばは他分野でも使われるようになったが、議論の混乱を避けるため、他分野のかたも気象学者の使いかたに合わせていただきたいと思う。「温室効果」(英語 greenhouse effect、フランス語 l'effet de serre、ドイツ語 Treibhauseffekt)は、地球などの惑…