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2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

潜熱、顕熱

潜熱ということばは、エネルギーの概念ができる前の熱素説のなごりなのだが、今も広い意味の物理科学(おもに化学)で使われていることばだと思う。現代流にいうと、物質の内部エネルギーは、温度によって変化するほかに、同じ物質で、同じ温度でも、固体・液…

太陽定数

「太陽定数」(英語ではsolar constant)とよばれる数量は定数ではないので、この用語は不適切だ。しかし、これまでに書かれた文献を読むためにはこの用語を知っておく必要がある。また、英語ではTSI (total solar irradiance)への置きかえが進んでいるようだ…

(元祖) WWW

WWWは、全世界にわたる情報ネットワークである。各地それぞれに独立した主体が情報を収集し発信する際に、あらかじめ約束された国際的標準に従うことによって、世界規模での情報共有を可能とする。しかも、電気通信を利用することによって、紙などを運ぶ通信…

GCM

気象むらで「GCM」と言えば、「大循環モデル」(general circulation model)のことだ。1990年代以後は「全球気候モデル」(global climate model)のつもりで使う人もいるが、その違いは会話にさしつかえないことが多い。【[2014-01-30補足] 大気の大循環モデル…

「熱輻射実験と量子概念の誕生」

最近「熱輻射実験と量子概念の誕生」という本を出した小長谷大介さんの同じ題目の講演を聞いた。日本科学史学会http://historyofscience.jp/ の「科学史学校」という、科学史に関心のある一般の人向けの企画だそうだ。わたしは科学史家の著書の訳者ではある…

気候変動適応研究にどう取り組むか

(今、わたしは、この研究に直接取り組む立場ではなく、研究を推進する(予算をつける)立場を想定して(しかし実際に予算をつける権限は持たずに)考えている。)(すでにどこかに書いていることのくりかえしが多くなってしまうが....)地球温暖化については、軽減…

(勧めたくない用語) 可降水量

可降水量 (precipitable water)とは、雨や雪となって降ることができる水蒸気の量、ではない。ある瞬間に大気中に存在する水蒸気量を、鉛直方向には地表面から(理屈のうえでは)ここより上には空気がないと言える「大気上端」まで積算したものだ。水平方向には…

降水量、なんミリ?

降水量の単位「ミリ」はミリメートル(mm)だ。降った雨が蒸発することも土にしみこむこともなく積みあがったらどれだけの高さになるか、と説明されることがある。雪はとかして液体の水にして勘定に入れる。ただし降水量は循環している水の流れに関する量だ。…

フラックス、なんワット(毎平方メートル)?

「フラックス」(英語flux)は、何かの流れを示す物理量に使われる用語だ。単位時間あたりに、ある面のある有限の大きさをもった部分を通過する(あるいはそこに到着する、あるいはそこから出ていく)物質の質量が、質量フラックスで、SI単位はキログラム毎秒(kg…

重力波

気象に限られない流体力学の用語だが、流体以外の物理の人はたぶん別のものを考えてしまうだろう。重力波(英語ではgravity wave)とは、重力を復元力とする古典力学的な波だ。海の波(波浪)も重力波だ。ただし気象で扱う重力波はたいてい「内部重力波」で、大…

釈迦夷狄

あるフリーの日本語入力ソフトウェアを使っていたとき、たびたび「釈迦夷狄」と書いてしまい、いろいろなことがらを連想したが、焦点を結ばなかった。「な」をつけた場合は「社会的な」になってくれたという記憶がある。(ただし、このところその入力ソフトウ…

海面気圧、海面更正

地上天気図には、地面のすぐ上(気温ならば2メートル上、風速ならば10メートル上が標準)で観測された数値が示される。しかし、天気図でいちばん重視される変数である気圧は、そのままではなく、海面の高さでの値になおして示されている。陸上のほとんどの場所…

ヘクトパスカル(hPa)

- 1 - 気圧の単位として、今ではヘクトパスカル(hPa)が標準的に使われる。気圧は圧力であり、圧力のSI (国際単位系)の標準の単位は、メートル・キログラム・秒のかけ算・わり算で組み立てられたパスカル(Pa)[ニュートン毎平方メートル]だ。ヘクト(hecto)はSI…

偏ったリスク認知に基づく議論の例

どこかで見た議論を再現したものだが、表現はわたしが考えたもの。もちろんわたしの意見ではない。例1 「福島原子力事故で、もうちょっと運が悪かったら、東京もみんな避難する必要があったかもしれない。原子力発電所が稼働しているということは、そういう…

→「気象むらの方言」

ブログ記事の分類カテゴリー名を「気象学で使われる表現」とすればよかったところを、ちょっとふざけて「気象むらの方言」としたら、うっかり「気象むらの表現」が混ざってしまった。カテゴリー名としては「方言」に統一するのでそちらを見ていただきたい。…

機構変動

自分が書いた文章を読みかえしていたら、書いたつもりのない「機構変動」という文字列があった。「気候変動」と書くつもりで、ローマ字入力漢字変換の結果を見ないでいたので、「きこう」に対する第1候補が「機構」になっているのに気づかなかったのだろう。…

ニセ通り

市街地の道の名まえの標識が「ニセ通り」と読めた。よく見たら、「二七通り」(Nishichi-dôri)だった。この道ぞいに何か「ニセ」を連想させるものがあるわけではない。

空耳、空目

空耳(そらみみ)というのは、実際には音がしないのに、音がしたと感じることだ。ところが、近ごろはむしろ、あることばを別のことばと聞きちがえることを言うほうが多いようだ。そして、空目(そらめ)ということばも見かけるが、これはいつも文字の読みまちが…

短波放射、長波放射

短波とは波長の短い波、長波とは波長の長い波のことだ。だが、どのくらいのものを長いというのかは、話題によって違う。気象学では、大気の力学的な波動についても「長波」などの表現が使われることがあった(「超長波」もあった)が、最近はあまり見かけない…

氷河時代、氷期、小氷期 / (勧めたくない用語) 氷河期、小氷河期

- 記事分類上のおことわり - この記事をひとまず「気象むらの方言」に入れたがこれは正確な分類ではない。ここでの話題は、気象学の用語というよりも、古気候学の用語だ。ただし、古気候学は教材が標準化された専門分科ではなく、地球科学のさまざまな専門分…

エネルギー資源の制約をきっかけとした政策のわかれ道

原子力をすぐ全部廃止しないとしても、これまでのように頼れないのは当然だ。自然エネルギー利用をもっと進めるべきであることも当然だ。その環境影響を考慮する必要があることも当然だ(考慮した結果の判断はいろいろありうるが)。エネルギー節約のうち、最…

しろうとはどの専門家が信頼できるかをどう判断するか: ひとつの分類整理

伊藤憲二さんのブログの2012年04月19日の記事「[読書]「素人」はどの「専門家」を信用すべきか判断できるか(Novice/2-Expert problem)」http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20120419/p1 では、この主題についてGoldmanによる分類が紹介されている。わたしはこ…

ラグランジュ(Lagrange)型とオイラー(Euler)型

これは気象だけでなく、流体力学の分野に共通なのだが、力学でも流体以外の人には通用しないと思うので、いわば「流体地方の方言」だと思う。 - 1 - 流体の運動、とくに運動方程式をどう記述するかについて、大きく分けて二つの態度がある。ラグランジュ型と…

使命感に燃えた科学者と、中立であるべき科学者と

[4月2日の記事]でふれたPlanet under Pressure会議について、オランダのJan Paul van Soest (ファン・スースト)さんが「Cassandra Science at Planet under Pressure」という題でコメントしている。http://planet3.org/ というサイトで見たのだが、もとはvan…

低気圧、高気圧

「気圧」は、空気の圧力のことであり、物理量である。気象の文脈では「気圧」と「圧力」という用語は区別なく使われる。しかし「高気圧」「低気圧」というのは物理量ではなく、大気中に現われた構造をさす用語である。水平2次元的構造をさす場合と、3次元的…

p座標

[前の記事]で、気象で使う鉛直座標は高さ(海抜高度) z だとした。実際 z を使うこともあるのだが、むしろ気圧(大気の圧力) p を鉛直座標として使うことが多い。水平座標を固定して鉛直だけについて考えると、ほとんどの場合、気圧は高さの単調減少関数だ。つ…

{x, y, z} {u, v, w}はどの方向?

3次元空間中の位置は3つの実数で表現できる。直交直線座標を使って(x, y, z)で表現したり、球座標を使って(r, θ, φ)で表現したりする。地球上の位置は、(緯度, 経度, 高さ)で表現することが多い[気象学の教材ページ参照]。 正確に述べようとすると、地球の形…

{文系, 理系}×{リベラル, 保守}

(まだよく整理されていない考え。今後だいぶ書きなおすかもしれない。)今年初めごろから何度も書いているが(多数あるのでリンク省略)、放射線ひばくの害に関する議論をきっかけとする、わたしから見ると不毛な、科学を論じる人たちの二極化が起きていると思…

地球環境に対して人間社会ができることに関する思想

Planet under Pressureという会議に出て[4月2日の記事]、またイギリスの科学もの書きLynas氏の本を読んで[読書メモ]、地球環境の有限性と人間社会の持続可能性について論じる人の間でも、かなり違った考えがあることを感じた。少し整理を試みたい。(まだ、な…

科学者の役割についての2つの議論の共通点

地球環境についての科学を主題とするPlanet under Pressure国際会議の宣言文 [日本語訳]についてわたしが理解した限り[4月2日の記事]でどうも納得がいかなかったことのひとつと、政策に寄与する科学技術に関する日本での議論に出てきた図についての疑問[3月2…